ランナー膝 別名:腸脛靱帯炎 Runners knee/lliotibialband syndrome

ランナー膝 別名:腸脛靱帯炎

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

ランナー膝 別名:腸脛靱帯炎

腸脛靱帯炎の主因はオーバーユース。過剰なランニング時間と距離には十分注意しよう

疾患の概要

はじめに

ランナー膝はランニングによる膝関節周辺のスポーツ障害の総称で、さまざまな病態が含まれます。今回は、狭義のランナー膝として腸脛靱帯が膝部外側で摩擦し、疼痛〈とうつう〉が発生する腸脛靱帯炎を主として述べていきましょう。

原因・発症のメカニズム

 腸脛靱帯炎はランニングによる膝障害の代表です。原因は膝の屈伸運動を繰り返すことによって腸脛靱帯が大腿骨外顆〈がいか〉と接触(こすれる)して炎症(滑膜炎)を起こし、疼痛が発生します。特にマラソンなどの長距離ランナーに好発します(ほかにバスケットボール、水泳、自転車、エアロビクス、バレエ等)。
発生の要因はオーバーユースです。過剰なランニング時間と距離、柔軟性不足(ウォームアップ不足)、休養不足、硬い路面や下り坂、硬いシューズ、下肢アライメント(内反膝)など、さまざまな要因が加味されています。

症状

大腿骨外顆周辺に限って圧痛が存在します(図)。腸脛靱帯は明らかに緊張が増し、時に靱帯の走行に沿って疼痛が放散します。
 初期はランニング後に痛みが発生しますが、休むと消失します。しかし、ランニングを続けていると次第に疼痛は増強して、簡単に消失しなくなってきます。

腸脛靱帯炎1
腸脛靱帯炎2

図 腸脛靱帯炎(丸囲み部分)

診断

膝外側の圧痛、運動時痛。症状の誘発方法(徒手検査法)として、膝を90度屈曲して外顆部で腸脛靱帯を押さえてから膝を伸展していくと、疼痛が誘発されるgrasping testが有用です。
レントゲンでは著明な変化はありません。MRIでも特徴的な所見はありません。

鑑別疾患

膝関節外側部での疼痛を主症状とする、外側半月板損傷との鑑別が必要です。

類似疾患

膝内側で同様の症状がランニングなどで起こる場合があります。鵞足炎(がそくえん)と言い、やはりオーバーユースが原因です。

ランナー膝はマラソンランナーに発生しやすい

治療・リハビリ

治療

オーバーユースのため保存療法が原則です。第1に局所の安静、つまり、ランニングの休止が重要です。次に、大腿筋膜張筋など股関節外側部を主としたストレッチの強化(トレーナー編参照)、アイシングを徹底します。さらに消炎鎮痛剤の投与や、超音波などの物理療法を行います。いったん症状が出現すると、簡単には消失しないので発症初期の決断、適切な休養期間が大切です。同一側の膝の負担を軽くする目的で、たまには普段と反対回りのトラック走行も取り入れてください。手術治療は報告例がありますが、あまり一般的ではありません。最後に体の柔軟性や下肢のアライメント、シューズやトラックのサーフェースのチェックなどを行ってください。

トレーナーによる対処法解説

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム GM
株式会社アスロニア ディレクター兼ヘッドコーチ
⽇本トライアスロン連合 マルチスポーツ対策チームリーダー

ランナー膝・ランナーズニー(腸脛靱帯炎)

予防

腸脛靱帯炎はオーバーユース症候群であり、「使いすぎ」が原因です。走る量(スピード、距離)が、現在の体力が耐えられなくなった場合や、疲労回復が十分でない状態で走ることを繰り返してしまった場合、またフォームに癖があったり、路面が硬かったり、シューズが適切でなかったりした場合に負担が集中し、その影響で関係する関節に負担がかかり、痛みを発します。これらは1つの原因だけで起こるわけではありません。したがって、総合的に考慮したトレーニング、競技復帰に向けたトレーニングプログラムを考える必要があります。
トレーニングの効果は、疲労が十分に回復されてから現れます。トレーニングが多くなれば、疲労回復のためのストレッチングや栄養の摂取、睡眠などリカバリーにかける時間も増やして行く事が予防策で一番大切な事です。
理想的なランニングフォームを習得し、必要であればサポーターやインソールなどを利用して、身体にかかる負担を軽減させる事が必要です。特に外転筋群の働きが弱い場合に、遊脚側の腰が落ちてしまい、その影響で着地側の脚の股関節外側への余分な動きが発生し、負担を増やすことが多いようです。走るだけではなく、股関節の筋肉が十分に力を発揮し、前後だけでなく、内、外への働き、捻る動きがスムーズに行われるようにエクササイズを行う必要があります。

現場評価・応急処置

ランナー膝はランニング時、ランニング後の膝外側の痛みを伴います。最初は弱い痛み、違和感ですが、対応をせずにトレーニングを継続すると痛みは強くなります。(図2)ある一定の距離を走ったときに疼が出現するのが特徴です。
腸脛靭帯炎が疑われた場合は、トレーニングを減らす。または、中止して、アイシングを継続して行ってください。

腸脛靱帯炎の疼痛部位

図 腸脛靱帯炎の疼痛部位

写真のように膝を曲げて座り、膝の上を押さえたまま、膝を伸ばすと痛みが出る場合、腸脛靭帯炎を疑います。スポーツドクターの診察を受けて、その重症度、回復までの期間を確認してください。

腸脛靭帯炎は、重症度が高いと回復までに時間を要することが多いので、早めの対応が大切です。

リコンディショニング

ドクターと相談をして、痛みの具合などを確認しながら、競技復帰を目指してトレーニングを行ってゆきます。
急激に走るスピード、距離が増えないように、水中歩行、水泳、自転車など着地衝撃がないものから始め、ウォーキングから、短いジョギングへと移行し、少しずつジョギングの距離を増やしてゆきます。
終了後は、十分なアイシングとストレッチングを行ってください。
患部への負担を減らすためにストレッチングを継続して行います。腸脛靭帯は、脛の骨の外側と骨盤をつないでいますが、骨盤に近い方は、大臀筋(お尻の大きな筋肉)と大腿筋膜張筋(ズボンのポケットのあたりにある筋肉)が付いていて、この2つの筋肉が疲労し、柔軟性が低下するとその先にある腸脛靭帯の張りが強くなり、炎症を起こす原因となります。下記写真・動画のストレッチングを特に入念に行ってください。この部位だけでなく、疲労が蓄積してしまうとフォームが崩れ、様々な部位に悪影響を及ぼしてしまうので、大腿四頭筋、ハムストリングス、腰など全身のストレッチングを行うことをお勧めします(写真・動画参照)。

腸脛靭帯のストレッチング

写真 腸脛靭帯のストレッチング

臀部のストレッチング1

写真 臀部のストレッチング1

臀部のストレッチング2

写真 臀部のストレッチング2

大腿四頭筋のストレッチング1

写真 大腿四頭筋のストレッチング1

大腿四頭筋のストレッチング2

写真 大腿四頭筋のストレッチング2

ハムストリングのストレッチング

写真 ハムストリングのストレッチング

腰・臀部のストレッチング

写真 腰・臀部のストレッチング

環境的な要因

競技復帰に向けたトレーニングの段階では、硬い路面や坂道を避けるようにしてください。特に、下り坂は下肢への負担を増大させますので、コース設定に注意してください。できるだけ広い公園などで、芝や土の上を走るようにしましょう。痛みが強い時期は水泳や水中歩行、自転車によるトレーニングで体力の低下を最低限にします。
前述の通り腸脛靱帯は脚の外側にあり、身体が外側に振れるようなストレスにより、膝の上の大腿骨の外側とこすれて痛みを発してしまいます。舗装された道路は雨水の排水を考慮して外側が低くなるように作られています。ランニングの際、低くなっている側=道路の外側はその外側へのブレが大きくなる可能性が高くなります。つまり、常に道路の右側を走った場合、常に身体が右に傾斜した状態で走ることになります。思い当たる人は、左側も走るよう心がけましょう。ただし、歩道は反対の場合もありますので注意してください。
陸上競技場のトラックも同様で、コーナーでは外側にストレスがかかります。トラックでのトレーニングに慣れていない方は徐々にトラックでの練習量を増やし、可能であれば反対方向に走るトレーニングも取り入れてください。
また、シューズを替えた直後に痛みが出始めたという話も聞きます。ソールのクッション性は自分の体力に合ったものを選びましょう。軽さを追求してクッション性の低いものを選ばないようにします。シューズのなかには安定性をよくするために、ソールの一部を柔らかくしたりしているものもあります。人によっては、逆にそれが負担になる場合もありますので、シューズを購入する際にショップのスタッフに相談してください。
サッカーやバスケットボール、バレーボールなどの球技の競技者がトレーニングの一環としてランニングを行う際、シューズに気を使わず球技のシューズのまま走って、痛みを発症させてしまうケースもあります。ランニングのトレーニングを取り入れる場合には、できるだけランニングシューズを履くようにしましょう。
ちなみにO脚の方は、シューズのソールの外側を少し高くするような足底板を用いることにより、腸脛靱帯へのストレスを軽減できることがあります。

フォーム

理想的なランニングフォームの獲得により、身体への負担を軽減させて走ることができます。常に重心を高く保ち、無駄な方向へのブレがないように意識することが大切です。
まず、立位での姿勢を安定させます。バランスディスクやバランスボードを利用して片足での安定した状態を獲得し、その意識を持ったまま重心を高くしてウォーキングをします。ウォーキングでも足が着地してから地面を離れるまでの間、身体が左右にブレないように注意します。足のつま先が内側を向いたり、膝が外側を向いたりしてしまわないように、チームメートやコーチ、トレーナーにチェックしてもらいながら、安定したウォーキングのフォームを獲得しましょう。
ランニング時の着地はウォーキングより勢いがあり、左右のブレが大きくなります。したがって、まずウォーキングで理想的なフォームをしっかりと獲得しましょう。着地した足から頭までが、できるだけ直線上にあるようにします。着地したときに腰が外側にブレてしまう場合は、外側へのストレスがかかります。着地と反対側の脚を早く前に振り出して、腰を落とさないで高くするように意識しましょう。
ウォーキングでのフォームが安定してきたら、片足ジャンプをして反対側の足で着地、そしてまた反対でゆっくり着地、を大きく繰り返すエクササイズを行い、フォームの確認を行います。その際には、身体が左右にブレずに直線的に動けるように意識します。これもチェックしてもらいながら進めましょう。
単純にトレーニングの量や強度だけを考えるのではなく、フォームや環境も併せて考慮して予防、再発防止をしていくことが大切です。

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