鵞足炎 Pes Anserine Bursitis

鵞足炎

ドクターによる症状解説

Suguru Torii

鳥居俊先生

早稲田大学スポーツ科学学術院教授(スポーツ医学、発育発達学)
日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本陸上競技連盟医事委員会副委員長
自身もランナーとして月間300㎞程度走る。

鵞足炎

ランナーに発生する膝の痛みの中で、内側に発生する痛みの原因として多い。

症状の概要

はじめに

鵞足炎はランニングによる膝障害の代表です。膝の後内側には内側ハムストリングス(半膜様筋と半腱様筋)と内転筋(薄筋)の腱が集まって、脛骨に付着します。膝の曲げ伸ばしの時に、これらの腱は大腿骨の内顆や脛骨内顆とこすれ、また腱同士の間でもこすれ合いがおこります。このようなこすれ合いが強くおこり、多い回数繰り返されることで、腱の周囲を包む腱鞘や複数の腱の間の滑走を助ける滑液包に炎症が生じて、腫れや痛みを感じる状態が鵞足炎です。

症状

膝の内側、やや後ろ気味の痛み、突っ張り、腫れが主症状です。接地時につんと来るような痛みを自覚することが多いですが、屈伸時に引っかかるような違和感も出ます。
初期は動かし始めに違和感があっても、ウォーミングアップされて温まると楽になり、繰り返しの動作でまた徐々に違和感が出てきます。症状が進行すると、温まっても違和感が消えず、練習の後半に痛みになって練習を中断するようになり、さらに進行すると、ウォーミングアップ後も痛みや引っ掛かりがなくならず、練習ができないという状態になります。

写真
肉眼での鵞足部の腫れ

原因・発症のメカニズム

発生の要因はオーバーユースですが、特に鵞足を構成する上記の筋群の疲労が蓄積し、柔軟性が低下しているとリスクが高くなります。同時に、鵞足を構成する腱が膝の内側の骨とこすれやすい状況(例えば膝が内側にぶれる動きや、もともと膝がX脚気味)にあると、さらにリスクが高まります。

男女差

市民ランナーの障害調査をした際に、膝の内側の痛みの経験があるランナーは全体で13.6%であり、男性は14.9%、女性は11.0%と、やや男性に多い傾向でした。これらの全てが鵞足炎とは言い切れませんが、多くを占めていると思われます。
(出典:鳥居 俊、後藤 晴彦「21世紀の市民ランナーにおけるランニング障害の疫学調査. ランニング学研究」)

診断

膝内側、鵞足部の圧痛、腫脹、内側ハムストリングや薄筋への伸長性負荷による疼痛誘発などで診断します。単純レントゲンでは鵞足自体の軟部陰影の増大、超音波では鵞足の腱の周囲に低エコーの腫脹、MRIでは鵞足部の輝度上昇が見られます。ただ、慢性期で腫脹が著明でなくなると、これらの変化がわかりにくくなります。

MRI画像
鵞足の腱周囲の炎症による輝度上昇(白く見える)が確認できる。

鑑別診断

内側半月損傷、脛骨内顆疲労骨折、変形性膝関節症(内側の骨棘)などが膝の内側に類似した痛みをおこします。

類似疾患

膝外側で同様の症状がランニングなどで起こる場合があります。腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)と言い、やはりオーバーユースが原因です。

治療・リハビリ

治療

オーバーユースのため保存療法が原則です。第一に局所の安静、つまり、ランニングの休止が重要です。急性期には鵞足部のアイシングを行います。次に、半膜様筋、半腱様筋、薄筋という鵞足を構成する筋群のストレッチングを行い、鵞足の腱の緊張を減らします。超音波などの物理療法も行われます。並行して、消炎鎮痛剤の外用薬の使用、症状が強い場合は内服薬の使用も考えます。これらの保存療法で改善がない場合、鵞足の腱周囲にヒアルロン酸や、ステロイドの注入を行うことがあります。それでも効果がない場合に、鵞足を覆う支帯や腱鞘をゆるめる手術を行うことがあります。

リハビリ

再発予防では、ランニング時の膝の動きを観察します。立脚期に膝が内側に入ったり、下腿の回旋が起こったりする場合には、股関節周囲の筋力強化、接地時のつま先の位置を修正するなど、フォームを見直すことも重要です。

トレーナーによる対処法解説

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム GM
株式会社アスロニア ディレクター兼ヘッドコーチ
⽇本トライアスロン連合 マルチスポーツ対策チームリーダー

鷲足炎

予防

鵞足炎は、腸脛靭帯炎や膝蓋靭帯炎と同様に、膝関節で発症するオーバーユース症候群であり、「使い過ぎ」が原因です。「使い過ぎ」と言っても、トレーニング量が多く、疲労回復が追いつかない単純な「使い過ぎ」と、身体の動かし方に癖があり、シューズの選び方、履き方が適切でない場合に、患部とその周辺に負荷が集中し、その影響により「使い過ぎ」となる場合があります。痛みのある部分だけの問題ではなく、その周囲にある筋肉、身体の動かし方など予防するためには、下肢だけでなく、全身の動かし方、トレーニング量を考慮して予防や競技復帰に向けたトレーニングを考える必要があります。

疲労回復が追いつかない単純な「使い過ぎ」に

ストレッチングを習慣化し、身体の硬さを日常的に把握する事で、筋肉の疲労具合を把握することができます。オーバーユース症候群のほとんどは、兆候があります。疲労の蓄積具合を把握して、その前兆を見逃さないことがポイントです。
ストレッチングを行うことで、疲労回復を促進させ、前兆を見逃さずに鵞足炎だけでなく、様々なケガを予防することが可能です。

身体の動かし方に癖があり、その影響により「使い過ぎ」となる場合に

膝を内側に絞るようなジャンプや着地、膝が内側に入り、足の爪先が外を向くようなランニングフォームは鵞足炎のリスクを高めます。特に回内足がある場合は、インソールを使い、必要であれば、サポーターを活用して、負担を減らすことが必要です。
股関節の外転筋と外旋筋である中殿筋、大殿筋をトレーニングし、内側ハムストリングス(半膜様筋と半腱様筋)と内転筋(薄筋)のストレッチングを行い、下腿が外旋する事を防ぐ事が鵞足炎の予防策となります。

※サッカーやバスケットボール、バレーボールなどの球技の競技者がトレーニングの一環としてランニングを行う際、シューズに気を使わず球技のシューズのまま走って、痛みを発症させてしまうケースもあります。ランニングのトレーニングを取り入れる場合には、できるだけランニングシューズを履くようにしましょう。

現場評価・応急処置

太腿部後面の内側ハムストリングス(半膜様筋と半腱様筋)と内転筋(薄筋)の柔軟性の低下が原因である鵞足炎は、その柔軟性の低下により評価することができます。最初は、硬さ、違和感、弱い痛みですが、対応せずにトレーニングを継続することで痛みが強くなります。
鵞足炎が疑われた場合、トレーニングを中止してアイシングを継続して行ってください。痛みがある場合、対象となる筋肉は強いストレッチングを避け、筋膜リリースやマッサージなどで鵞足への緊張を減らします。

リコンディショニング

主治医と相談しながら、痛みの具合を確認しながら、競技復帰のためのトレーニングを行います。
急激に走るスピード、距離が増えないように、水中歩行、水泳、自転車など着地衝撃のないものから始めてください。ただし、平泳ぎは鵞足部に負担がかかるので、痛み、違和感がある間は行わないでください。
患部への負担を減らすために「ケガを予防する下半身の動き」として、半膜様筋と半腱様筋のストレッチングと、薄筋のストレッチングを継続して行います。膝が内側に入る動きを修正するために、中殿筋、大殿筋のトレーニングを行い、爪先と膝の方向を確認スクワットや階段の歩行を行い、身体に正しい動きを覚え込ませる事で、再発予防になります。
また、競技復帰してからも患部のアイシングを行うようにしてください。

ランニングフォーム

余分な負荷がかからないランニングフォームを獲得する事で、ケガの予防だけでなく、パフォーマンスの向上も望むことができます。
ランニングフォームの基本は、前に効率よく進むことであり、横方向への動きや減速させてしまうような動きは身体への負担を大きくします。基本的なランニングフォームを習得してから、球技などで必要な横方向への動きを考えることがケガの予防、パフォーマンスの向上につながります。

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