筋・筋膜性腰痛症 Myofascial low back pain

筋・筋膜性腰痛症

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

筋・筋膜性腰痛

疾患の概要

腰痛とは腰部の痛みの総称です。スポーツ全般において最も頻度が高い傷害で、いくつかのタイプがあります。筋・筋膜性腰痛症は、スポーツ活動等によって起こる腰の筋膜や筋肉の損傷による腰痛の一種です。

原因・発症のメカニズム

背骨を構成している骨(脊椎)のうち、腰椎は5個の骨の積み重ねで成り立っています。この骨と骨との間には、椎間板という柔らかいクッション代わりの組織があり、骨同士の衝撃を和らげています。また、腹筋(腹直筋、内外腹斜筋、腹横筋)と背筋(脊柱起立筋、広背筋、大腰筋)などが、背骨をとり囲むようにして支えています。

スポーツ中の無理な体勢(屈伸、回旋、衝撃)によって背筋に過剰な負担がかかる場合に発症すると言われてます。急性の筋膜や筋肉損傷はいわゆる肉ばなれです。腰椎捻挫(靱帯や関節包の損傷も含む)もほぼ同じ意味合いです。症状は腰椎に沿って発生する腰痛や圧痛、運動時痛です。慢性の場合は、主に使いすぎ(オーバーユース)による疲労が原因なので症状として背筋の緊張が高まり、筋肉に沿った痛みがあります。
スポーツ活動では、ピッチング、ジャンプ、スイング、体幹の過伸展(背筋)や、屈曲(腹筋)、回旋(腹斜筋ほか)、中腰の姿勢から腰にひねりを加えるなど、スポーツ全般の動作で発生します。腰に負担のかかる激しい動作に多く起こり、また前傾姿勢の保持(ゴルフなど)や着地時の衝撃(バレーボールなど)なども腰痛の原因となります。

診断

下肢のしびれや筋力低下、知覚障害などの神経症状、レントゲンでみられるような骨の変化はありません。また、鑑別はなかなか困難ですが、前述の所見のない腰痛全般です。いわゆるぎっくり腰の多くは筋膜が損傷したものだと思われます。

鑑別疾患

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎の間にある椎間板から髄核が飛び出して神経を圧迫し、腰、臀部、下肢後面の疼痛(坐骨神経痛)や足先にしびれ感などが出現する。腰部への過度な負荷が原因だと考えられるが、レントゲンよりMRIが有用である。

腰椎分離症

発育期において、腰に大きな負荷のかかるスポーツ選手に多くみられる。腰椎後方の椎弓が分離(疲労骨折)しており、分離部の異常可動によって疼痛が発生する。体幹を後屈すると腰痛が増強しやすい。レントゲンやCTで鑑別できる。

治療・リハビリ

急性の腰痛症では身動きも困難な場合があり、このようなときは第一に安静、第二にアイシングをしましょう。ただし、いたずらに長い安静は筋力や柔軟性の低下につながるため、強い疼痛が軽減したらすみやかにストレッチングを行います。そのため、腰痛に対する十分な理解と、ストレッチングなど日常での管理が必要です。また、消炎鎮痛内服剤、湿布などの外用剤の使用や、温熱ホットパック(特に慢性期)、物理療法(電気治療、低周波、干渉波)、超音波、低出力レーザー(写真1)、鍼、マッサージ、カイロプラクティックなど、さまざまな治療がありますので、症状や病状に応じて治療法の選択も変化します。腰痛用ベルトには、腰椎や骨盤に過大な動的負担が加わらないように安定させる目的がありますので、スポーツ選手にも有用です(写真2)。

筋・筋膜性腰痛1

写真1 バレーボール全日本選手の腰痛管理ではレーザー治療も行う

腰サポーター

写真2 腰痛用ベルトはプレー中に使用することで、腰への負担を軽減し安定を図れる

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ワンポイントアドバイス

【股関節の柔軟性】

腰痛改善には隣り合う股関節の柔軟性獲得が大切です。SLRテスト、立位体前屈、腹臥位での踵臀距離などの柔軟性チェックを行います。股関節周辺の筋柔軟性が低下すると、腰部への負担が増加します。  股関節の屈曲(ハムストリングス大腿後面の伸張)・伸展(大腿四頭筋)・外転(内転筋)・内転(腸脛靱帯)などのストレッチングによって股関節の可動域獲得を図りましょう。特に慢性の腰痛では、体幹筋のトレーニングや回旋ストレッチが有用です。

トレーナーによる対処法解説

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム GM
株式会社アスロニア ディレクター兼ヘッドコーチ
⽇本トライアスロン連合 マルチスポーツ対策チームリーダー

筋・筋膜性腰痛症(トレーナー編)

予防

体幹の中でも、股関節や肩、肩甲骨周辺の柔軟性を高め、腰、腹筋の安定性を高めるためのトレーニングを行うことが大切です。
実際には、腰にある筋肉が痛みを発しておりますが、腰への負担を左右する部位は広く、全身のストレッチングと筋力のバランスを整えるようにしてください。
日常生活から腰に負担をかけるような姿勢が続くと、スポーツをする前に疲労をしていて、その負担を大きくしてしまいます。姿勢を良くするためのストレッチング、エクササイズを行います。
腰のすぐ下にある殿部の柔軟性低下も腰痛に大きく影響し、その反対にある股関節屈曲を行う腸腰筋の柔軟性低下も、骨盤の前傾を強くしてしまい、腰部への負担を増加させてしまう。背面にある筋肉だけでなく、前面にある筋群も影響が大きいので、注意が必要である。

柔軟性の向上

胸の筋群の柔軟性が低いと肩甲骨の動きを悪くし、裏側にある肩甲骨の柔軟性にも悪影響を与えます。よって、大胸筋のストレッチングから始め、肩甲骨の脇にある筋群などをストレッチングします。

体幹筋力の向上

さまざまな腹筋群や背筋群が紹介されています。スポーツ活動中では、様々な方向、体制での筋力発揮が求められています。一つのエクササイズにこだわらず、いくつかのエクササイズを合わせて行ってみてください。
体幹部の筋力を鍛えて腹腔内圧が上昇すると、脊柱への負担は30~50%軽減され(図)、腹圧性脊柱支持能力が高まります。 もし、腰痛を抱えていて体幹部強化のエクササイズができない方は、小さな動きから始め、徐々にダイナミックな動きにしてみてください。

痛みまで発展していなくても、腰の不安定感を感じたら、日常生活、スポーツ活動中にサポーターを利用して、腰への負担を軽減させることも、腰痛の予防になります。

図 腹圧性脊柱指示能力:腹圧を形成している腹筋・胸筋・背筋群を強く収縮して腹圧を上昇させると、内蔵の諸器官のズレや腰椎の歪(ゆが)みなどを防ぐ。よって腰椎の支持能力が向上し、長軸方向への圧迫力がS1よりも減少する(S2):「スポーツ外傷学2」、医歯薬出版より引用

写真1 ハムストリングのストレッチ

写真2 大腿四頭筋・腸腰筋のストレッチング

写真3 臀部のストレッチング

写真4 腰部のストレッチング

現場評価・応急処置

強い痛みや動けない場合は、無理にストレッチングやマッサージを行おうとせず、安静を保ち、痛みのある部位のアイシングを行ってください。
腰痛には、椎間板ヘルニアなど骨、軟骨の問題も考えられるので、スポーツドクターによる診察を受けることをお勧めします。
筋肉の柔軟性低下や筋力のバランス低下による腰痛で、動くことを許可された場合は、関係がある部位の柔軟性をチェックします。

原因の想定

2本足で立つことにより手を自由に使え、素晴らしい文明を手に入れた人間は、その代わりに腰痛と常に隣り合わせになってしまいました。原因となるストレスを見つけて少しでも軽減させることが大切です。  腰痛は骨折や捻挫とは違い、痛みが発生する原因は1つではありません。さまざまな原因が複雑に絡み合って発生する場合が多いので、簡単に特定せずにいろいろな原因を想定して考えてみてください。

一般的な「腰痛」の多くは、伸展型(写真5)、屈曲型(写真6)、回旋型(写真7)、安静型、不安定型、と5つのタイプに分けられます。安静型、不安定型は原因をつき止めにくいのですが、伸展型、屈曲型、回旋型は原因を特定しやすいのが特徴です。

写真5

写真6

写真7

伸展型は、身体を後ろに反らす動作で痛みや違和感が増します。原因には、腸腰筋や大腿四頭筋、大腿筋膜張筋などの股関節屈曲にかかわる筋群の柔軟性の低下や、股関節伸展筋(ハムストリングス)がうまく働かないなどが考えられます。また屈曲型では、立位体前屈のように身体を前に倒す姿勢で痛みや違和感が発生し、腰背部や臀部の筋群、及びハムストリングスの緊張が原因であると考えられています。回旋型は、体幹の回旋によって痛みが増強することから、腹筋がしっかりと働いていない、筋力不足、腰方形筋(回旋した側の腰部の筋肉)の柔軟性低下、などが原因として挙げられます。 以上の分類が必ずしもすべての腰痛の症状や原因ではありませんが、それぞれの筋肉の柔軟性、筋力発揮のバランスに特徴を把握し、対処していく段階では参考になります。

リコンディショニング

ドクターと相談し、症状を確認しながら痛みのない範囲で進めて行きます。
ストレッチングも小さな動きから徐々に大きな動きにし、エクササイズも負荷の小さなものから徐々に大きなものに移行して行きます。
日常生活での活動やスポーツに復帰する段階で、腰への負担を軽減させて、競技復帰を目指すためにサポーターを活用することをお勧めします。
腰部に負担のかからない基本的な姿勢、動きを作るためにフォームローラーやバランスボールを使ったエクササイズも腰の痛み、不安定感を確認しながら行います。

体幹部の筋力・筋持久力の向上と股関節を中心とした柔軟性の向上が大切です。関係する部位のみのストレッチングだけでなく、全身的に行うことが望ましいのですが、ここでは、股関節、腰部、肩甲骨周囲のストレッチングやエクササイズを中心に紹介します。 しかし、痛みが強い状態で行うと、筋が緊張して痛みが増強する場合もありますので、筋の過緊張を和らげてから取り組むとよいでしょう。ホットパックなどで温めたり、腰、体幹から遠い部位のストレッチングからリラックスして徐々に体幹に近い部位のストレッチングを行い、その後にエクササイズを行うような流れが理想です。自分に合った治療法をドクター、トレーナーと相談してください。また、腰部への負担を軽減させる腰痛用のサポーターなども販売されていますので、積極的に利用してよいと思います。

股関節屈筋群

写真8 股関節屈筋群の腸腰筋や大腿直筋、大腿筋膜張筋などの柔軟性が低下すると、骨盤の後斜が制限されて前傾が強くなる傾向がみられ、腰椎の前弯が強くなって伸展型の腰痛になる可能性が高まります。みなさんは大腿部前面のストレッチまではよく行うのですが、股関節屈筋群までは行っていないことが多いようです。

股関節伸筋群

大臀筋やハムストリングスなどの股関節伸筋群や、梨状筋などの外旋筋群の柔軟性が低下すると、体幹の屈曲動作時に骨盤が前傾しなくなるため、屈曲型の腰痛の原因になることがあります。競技別では、低い姿勢で構えるバレーボールでは下腿後面の柔軟性の低さが腰痛の原因になったり、水泳では肩甲骨周辺の柔軟性の低下が腰痛の原因となったりします。 このことから考えても、 部位ごとのストレッチも大切ですが、総合的な全身ストレッチングを日常的に行うことが大切です。体幹のリラックスとストレッチングには、フォームローラーなどを利用するとよいでしょう。

写真9 あお向けの状態で右膝の上に左足が交差するように位置し、右膝を上げて持ち上げる。左足を膝の方へ近づけるイメージで、右足をゆっくり倒していく。腰、肩、頭は地面につけておく。

腹筋

写真10 へその上をのぞき込むようにして頭を持ち上げる。肩甲骨が床から離れるくらいでもOK。この姿勢を数秒から数十秒保持し、数回繰り返す。

背筋

写真11 伏臥位から全身を反らす運動だと痛みを伴う場合は、よつんばいになり、片脚と反対側の片腕を上げて一直線になるようにする。この姿勢を数秒から数十秒保持する運動から始め、痛みが軽減すれば通常のトレーニングに移行する。背筋群のエクササイズを行うときは、同時に腹筋群にも力を入れて腹膜圧を高めておく。

股関節伸展筋

写真12 あお向けの状態で足底全体を地面につけて両膝を曲げた姿勢をとり、両手でサポートしながら下半身を持ち上げる。そのときに腹筋と背筋に力を入れてバランスを保ち、股関節伸展筋に意識を集中させる。

腹筋と背筋

写真13 両足をボールに乗せて両手を地面につき、腕立て伏せのような姿勢をとる。身体が一直線となるように腹筋群と背筋群にバランスよく力を入れる。

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