梨状筋症候群 Piriformis syndrome

梨状筋症候群

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

梨状筋症候群

梨状筋症候群はマラソンなどのレースやトレーニング中、坐骨神経痛が出現し、臀部痛、大腿後面痛など多彩な症状を発する

疾患の概要

ランニングなどのトレーニング中、坐骨神経痛が出現し、特に股関節を内旋すると臀部が痛むという選手への対処をときどき質問されます。
股関節の動きのなかで特に複雑で、かつ微力なものに回旋(内外旋)運動があります。股関節を内旋すると痛む場合は外旋筋群が硬くなっており、その下にある坐骨神経が圧迫されている可能性があります。
このような疾患を梨状筋症候群 (Piriformis syndrome)といいます。

原因・発症のメカニズム

股関節の動きのなかで特に複雑で、かつ微力なものに回旋(内外旋)運動があります。股関節を内旋すると臀部が痛む場合は股関節の外旋筋群が硬くなっており、その下にある坐骨神経が圧迫されている可能性があります。
臀部坐骨神経周辺の解剖は複雑ですが、解剖図を参考にしてください(図1)。原因は正常と違い梨状筋の走行異常に起因している場合が多いようです。

梨状筋症候群1

図1 梨状筋:図中央の洋梨の形をした筋

診断

症状

主にスポーツによって出現する坐骨神経痛が主症状で、臀部痛、大腿後面痛など多彩な症状を発する疾患です。梨状筋にタイトネス(硬さ)があると、股関節に力を入れて外旋したときや、他動的に内旋させるときに痛みが発生します。特に坐骨神経を圧迫している場合は、SLR手技(下肢伸展挙上)にて症状が増強します。梨状筋の緊張が強くて直下にある坐骨神経を圧迫するため、腰椎椎間板ヘルニアと類似した症状であり、鑑別が必要になります。反対に、梨状筋は他動的に股関節を外旋すると緩みます。

徒手診法

Freiberg testは、徒手的に股関節屈曲位での内旋を強制すると、梨状筋が緊張して疼痛が増強する誘発テストです。

梨状筋症候群2

図2 Freiberg test。坐骨神経を圧迫している場合は症状が増強する

治療・リハビリ

治療

スポーツ現場での対処法はストレッチングが有用です。選手を腹臥〈ふくが〉位にして膝関節90度屈曲位で、股関節の外旋運動に対して内旋方向に抵抗をかけてアイソメトリックに梨状筋を収縮させ、股関節の外旋筋群の伸張を図ります(写真A)。
このストレッチングにおける内旋角度(抵抗角度)を徐々に変更すると、梨状筋はストレッチされて坐骨神経の圧迫症状も軽減してきます。しかし、非常にデリケートな筋肉なので、あまり抵抗をかけすぎないようご注意ください。
鎮痛剤投薬、神経ブロック、物理療法などの保存療法に難渋する場合は、梨状筋を切離して坐骨神経を開放する手術を行う場合もあります。

梨状筋のストレッチング

写真 梨状筋のストレッチング

トレーナーによる対処法解説

Yoshizumi Iwasaki

岩崎由純先生

NATA公認アスレティック・トレーナー、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、JCCA(日本コア・コンディショニング協会)会長

梨状筋症候群

予防

梨状筋は、非常に深い位置にあるいわゆるディープ・インナーマッスルですから、なかなか狙って鍛えることも、ストレッチすることも容易ではありません。しかし、普段から股関節のストレッチングを十分に行うことが予防につながると考えられます。また臀部の深層に違和感が出始めたら、その部位を意識してストレッチの工夫をすることは可能です。

現場評価・応急処置

梨状筋も筋肉である限り、なんらかの強い外力で断裂や部分断裂を起こすこともあります。しかし、多くの梨状筋症候群は、オーバーユースによる筋の硬結がその原因ではないかとも考えられます。もちろん肉ばなれ(筋の部分断裂)後、そのまま放置したために筋の瘢痕〈はんこん〉組織が大きくいびつなものとなってしまい、筋肉が本来もっている伸展性が損なわれて症状が出る場合もあります。再開は、「ドクターストップの解除」を大前提としてください。梨状筋の再開テストでは、まず日常生活で脚のしびれや臀部の違和感がないかチェックしてから、(1)片足閉眼立ち、(2)片足カーフレイズ(ヒールレイズともいう)、(3)片足ホップなどをします。それがクリアできるようであれば、グラウンドや体育館などに出て、(4)ダッシュ、(5)バウンディング、(6)方向転換(前後切り返し)ができるかテストします。さらに、種目やレベル、選手のポジションなどに応じた動きを監督やコーチとともにチェックして、最終的に練習や試合に戻りプレーを再開すべきか否かを判断して下さい。

リコンディショニング

完全な競技復帰をする前に、競技種目の基本動作で再開テストすることも忘れないでください。梨状筋症候群の場合は、しびれが大きな問題になります。きわめて慎重に再発予防のためのコンディショニングとアフターケアを続けることが絶対条件です。
臀部に違和感を感じ脚にしびれが出て、ドクターに相談した結果、梨状筋症候群だと診断されても「アイシング」と「安静」だけを指示される場合が多いのは事実です。梨状筋は、かなり深い位置にあるのでアイシングの際は、写真1のようなポジションをとり、熱伝導で狙った部位が冷えるように工夫する必要があります。

梨状筋症候群1

写真1 アイシング:横臥位で片膝を前に出し、できるだけ患部に当たるようにする

また、深部を温めるために超音波治療器(ウルトラ・サウンド)などを使う場合も同じ姿勢(写真2)をとります。マッサージ(写真3)をする際も例外ではありません。

梨状筋症候群2

写真2 超音波治療:横臥位で膝を前に出し、患部に熱が届くように角度を工夫して行う

梨状筋症候群3

写真3 マッサージ:深層の筋肉なので指圧やディープ・フリクションマッサージが使われる

梨状筋症候群4

写真4 一般的な臀部のストレッチング

梨状筋症候群5

写真5 足全体を胸に引き寄せるなどして伸びる位置を調整する

梨状筋症候群6

写真6 一般的な臀部のストレッチング2。顔の向きや、掛けた足先の向きなどを変えて伸びる位置を微調整する

梨状筋症候群8

写真7 膝を逆膝にかけて股関節を屈曲する

梨状筋症候群10

写真8 四つんばいになって脚をクロスする。その状態から後ろの脚を伸ばしながら前の臀部を伸ばしたりする。

梨状筋症候群12

写真9 前の写真と同様のことをストレッチポールを(Sサイズ)を用いて行う。目的とする臀部の筋肉が伸びるまでポールを転がしていく

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