ボクサー骨折 Boxer’s fracture
ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi
林 光俊先生
医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター
ボクサー骨折
ボクサー骨折とは読んで字のごとく、拳(こぶし)に発生するスポーツ傷害である
疾患の概要
はじめに
ボクサー骨折はスポーツ傷害の1つで、手の拳(こぶし、ナックル)による強打の衝撃で起こる中手骨骨折です(図1)。

図1 パンチしたときのボクサー骨折の受傷

写真1 パンチ衝撃後の手部

写真2 ボクサー骨折のレントゲン写真
原因・損傷のメカニズム
パンチを繰り出すときの正拳は、中手骨の縦軸方向に力が加わるようにしますが、衝撃の方向が少しずれると中手骨頸部に衝撃が加わり、長い骨もポッキリと骨折の原因となります。
好発部位
第4・5中手骨の頸部〈けいぶ〉に発生しやすく、ハードパンチャーでは第2・3中手骨骨折、正しく握ってないと母指の骨折も起こります。
症状
パンチ衝撃後の手部の激痛、腫脹〈しゅちょう〉、変形、手指の運動障害が急激に発生します(写真1)。
診断
レントゲン
中手骨の頸部に骨折線があり、背側突の屈曲変形を呈します(写真2)。この変形は、骨間筋、指屈筋腱、手根伸筋などの作用で骨が転位したため引き起こされます。
治療・リハビリ
治療
中手骨頸部で背側突の変形が生じやすく、保存療法はこれをMP・PIP関節90度屈曲位で矯正して整復、固定します(実際には変形が再び生じやすい)。整復困難な例では、手術が適応です。経皮的に鋼線を刺入するなどの内固定を要します
リハビリテーション
保存療法の固定は4~6週間必要です。その後、手指の屈伸訓練から開始します。ボクサーではさらに固定期間が必要です。2ヵ月以上経過してレントゲン上で骨癒合が完成していたら、柔らかいところを正しく軽く叩くようにします。変形、短縮した例では再骨折が起きやすいので、さらに十分な期間を要します。強いパンチ衝撃の加わる練習は6ヵ月は禁止しましょう。
エピソード
ボクシング元世界フライ級チャンピオンの海老原博幸選手は、そのパンチの強さゆえに、自分の拳まで痛めたといわれています。現役中に数回骨折を繰り返し、完治せずに最後は引退の原因となりました。ハードパンチャー故に宿命の傷害がボクサー骨折なのです。
トレーナーによる対処法解説

Hitoshi Takahashi
髙橋 仁先生
帝京平成大学地域医療学部准教授
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、はり・きゅう・マッサージ師
ボクサー骨折(トレーナー編)
予防
受傷機転と現場での処理
ボクサー骨折は、拳を握って強打することで発生し、中手骨の頸部を骨折します。一般に、骨折部位は、第4・5中手骨に多く発生します。しかし、プロボクサーや空手家などの上級者は第2・3中手骨を受傷する場合が多いことから、スポーツ現場では注意が必要です。 急性症状は、MP関節の運動制限と中手骨骨頭部隆起の消失(変形)、中手骨頸部の激しい腫脹が認められた場合は、骨折を疑い、その処置を行います。
現場評価・応急処置
RICE処理
現場での処置は、まずアイシングを行います。骨折による変形がある場合は、アイスパックや氷嚢〈ひょうのう〉を使用すると、患部が圧迫されて痛みが伴うためにアイスバケツを使用します。その際、なるべくアイスバケツを高い位置において患部を挙上します。また、手関節くらいまでバケツの中に入れて、手全体をアイシングします。20分くらいで感覚がマヒしてきたら、固定を行います。
固定
固定は、金属板にスポンジを付けたアルフェンスシーネ(写真2)を用いて行います。アルフェンスシーネは手で簡単に形を変えられるため、しっかりと患部が固定できます。スポーツ現場での応急処置にはとても重宝します。
掌側にアルフェンスシーネを当てて、手関節部とDIP関節の辺りでテープで固定します(写真3)。MP関節は、やや屈曲位で固定します。 固定をしたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。
リコンディショニング
アスレティックリハビリテーション
保存療法の場合、医療機関での整復後3~4週間は固定をします。
固定後は、関節可動域と筋力の回復を目的として、アスレティック・リハビリテーションを行います。以下に、アスレティック・リハビリテーションプログラムを紹介します。
手背部のマッサージ
初めに、温浴やホットパックなどの物理療法を行います、その後、関節の拘縮(こうしゅく)を改善させるために、マッサージや牽引で他動的に筋肉や関節にアプローチします。

中手骨の間を母指揉捏(じゅうねつ)

指の二指揉捏
徒手による関節可動域の改善

牽引

MP関節屈曲

MP関節伸展
次に、自動運動や筋力トレーニングを行い、積極的に患部を動かしていきます。競技復帰は、骨癒合の上体と関節機能の回復を見て判断します。
バディテープによる自動運動
バディテープを用いることにより、隣接指の運動と同時に患指を運動させることができる

MP・PIP・DIP関節の屈曲

MP・PIP・DIP関節の伸展
筋力トレーニング


輪ゴムを負荷にした、指の外転運動
タオルギャザー

弾性包帯やタオルを手繰り寄せながら握っていく
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