鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群) Groin pain syndrome

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

鼠径周辺部痛症候群(グロインペイン症候群)

疾患の概要

サッカーなどのスポーツを中心に、鼠径部周辺には多様な原因で発生する各種の痛みがあり、本当の原因を特定しにくいため鼠径部痛症候群(Groin pain syndrome、図)と述べています。
鑑別障害に恥骨結合炎、大腿内転筋付着部炎、大腿直筋炎、腹直筋付着部炎、腸腰筋炎、鼠径ヘルニア(スポーツヘルニア)などが挙げられます。

鼠径部周辺の疼痛領域

図 鼠径部周辺の疼痛領域(文献1より)

原因・発症のメカニズム

受傷原因

下肢の外傷後や体幹から股関節にかけてスポーツによる使い過ぎなどによって筋力低下や柔軟性低下、拘縮が起こり、それが鼠径部周辺の痛みとなると思われる。
キック動作やランニングやなどの繰り返しの運動によって、鼠径部、股関節周辺、骨盤にメカニカルなストレスが加わって炎症が生じ、痛みとなります。タックルなどで直接股関節周辺に打撲を受けた場合でも発生します。

症状

圧痛、運動痛、時に鼠径部や大腿内側(内転筋付着部)、下腹部にまで放散する疼痛が特有です。慢性化すると鼠径部が常に痛みます。特に下肢を伸展して挙上、外転する動作で誘発されやすく、股関節の可動域制限、筋力低下が見られます。

好発スポーツ

サッカーが好発で大半を占め、陸上競技中・長距離、ラグビー、ホッケー、ウェイトリフティングなどで20歳前後の男子選手に多く発生します。

診断

鼠径部周辺の疼痛の少々であるため明確な診断は難しい。

鑑別(類似)疾患

恥骨結合炎とは、左右両サイドの恥骨を結合する軟骨円板の運動ストレスによる炎症であり、スポーツによって発生することが多い障害です。
恥骨結合炎の典型例では薄筋、内転筋の恥骨付着部に骨融解像(とける)や、左右恥骨の高さの違い、結合部の変形などが生じます。CTでも確認できます。ただし、骨まで変化が及ぶ場合は比較的少ないといえます。

恥骨疲労骨折は、鼠径部の疼痛を主として、バスケットボールやテニスに多く発生します。
ハムストリングス損傷による臀部痛、大腿外側痛中心の腸脛靱帯炎、臀筋炎などがあります。

治療・リハビリ

治療

急性期例や発症後半年以内例では、保存療法が第1選択です。疼痛が強い場合は、約2週間のスポーツ休止が必要です。疼痛部位の局所安静(ランニング、キック禁止)、アイシング、時に温熱療法(ホットパック)、消炎鎮痛剤投与、ステロイドホルモンの局所注射(多用は避ける)などが用いられますが、長期的には運動療法が奏功します。
初期のリハビリテーションは股関節の外転可動域訓練、筋力強化、内転筋のストレッチングから開始して水中歩行、エアロバイクによる免荷訓練、その後ジョギング、2ヵ月でボールキック練習を行います。疼痛が消失したからといって、いたずらな早期復帰はかえって再発を繰り返します。慢性化すると長期間(2~3ヵ月以上)スポーツ休止を余儀なくされるので注意を要します。

手術

保存療法に抵抗して長期間疼痛が消失しない場合は、手術治療が考慮されます。しかし原因がはっきりしないため以前からさまざまな方法が行われ、薄筋腱切離、骨片摘出術、恥骨結合の固定術、内転筋内の血腫除去、ヘルニア修復術など、主病変を特定して原因に対処してきました。適応は各国さまざまです。十数年前にゴンこと中山選手(元ジュビロ磐田)がドイツで手術治療を受けて、復帰している例もあります(詳細不明)。
最近では保存療法が奏功するのでリハビリテーションを積極的に取り入れてます。

参考文献:1)仁賀定雄:『Groin pain syndrome』

トレーナーによる対処法解説

Hitoshi Takahashi

髙橋 仁先生

帝京平成大学地域医療学部准教授
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、はり・きゅう・マッサージ師

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)

予防

予防には、股関節周囲の筋柔軟性の確保、体幹・股関節周囲筋の強化などがあげられます。また、サッカー選手では、下肢と上肢を連動させたキック動作の習得などスポーツ動作の改善も行われています。

現場評価・応急処置

スポーツ現場で股関節の痛みを訴える場合は、まず初めに器質的な問題(鼠径ヘルニア・疲労骨折など)がないか専門医を受診させます。器質的な問題がなければ機能的な問題(鼠径周辺部痛症候群)として対応していきます。疼痛が強い場合はスポーツを中止しアイシングで対応します。

リコンディショニング

ストレッチング

鼠径周辺部痛症候群と考えられる選手の特徴としては、股関節周囲筋の柔軟性の低下が挙げられます。なかでも重要なのは、股関節内転筋群の柔軟性を保つことです。今回は、股関節周囲の内転筋、伸展筋(大殿筋・ハムストリングス)、屈曲筋(腸腰筋・大腿直筋)、のストレッチングを紹介します。
ストレッチングは静的に10~20秒行います。

内転筋

その1(股割り)

恥骨結合炎1

つま先と膝を同じ方向へ向ける。大腿内側にストレッチ感があるまで、腰を落とす。(写真1)

恥骨結合炎2

肩を前方に押し出すと同時に膝の内側を押す(写真2)

その2:(伸脚)

恥骨結合炎3

伸ばした足の膝の上方や大腿部を軽く押しながら行う。(写真3)

恥骨結合炎4

姿勢を低くして行う(写真4)

その3

恥骨結合炎5

台に脚を載せて支持脚側に前屈する(写真5)

膝関節伸展位(座位開脚)

恥骨結合炎6

左右を行い(写真6)

恥骨結合炎7

最後に中央の順番で行う(写真7)。トレーナーは、開脚した脚が閉じないように、手や足で押さえておく。

膝関節伸展位(背臥位)

恥骨結合炎8

トレーナーは、反対側の脚が閉じないように、手で押さえておく(写真8)。

膝関節伸展位(座位)

恥骨結合炎9

トレーナーは、膝から上を押していく。膝関節の屈曲の角度を変えて行う。膝関節を深く屈曲したストレッチ(写真9)。

恥骨結合炎10

90度くらい屈曲したストレッチ(写真10)。また、選手は体幹を前屈するとさらに効果的である。

膝関節屈曲位(背臥位)

恥骨結合炎11
恥骨結合炎12

座位同様に、膝関節の角度を変えて行う(写真11、12)

恥骨結合炎13

片側ずつ行ってもよい(写真13)

伸筋(大臀筋・ハムストリング)

恥骨結合炎14

立位から、ストレッチする脚をやや前に出して前屈する(写真14)。

恥骨結合炎15

脚を交差させて行う方法もある(写真15)。

膝関節屈曲位

恥骨結合炎16

トレーナーは、反対側の脚が上がらないようにする(写真16)。

膝関節伸展位

恥骨結合炎17

トレーナーは、反対側の足が上がらないようにする(写真17)。
屈曲位から伸展位にする:初めに屈曲位で行い、そこから伸展させていく。

屈筋(腸腰筋・大腿直筋)

恥骨結合炎18

ランジの姿勢から膝関節を屈曲していく。上体が倒れないようにする。膝関節を軽く屈曲させて場合は腸腰筋のストレッチングになる(写真18)。

恥骨結合炎19

次に、膝を深く屈曲して大腿直筋のストレッチングを行う(写真19)。

膝関節屈曲位・股関節中間位

恥骨結合炎20

大腿直筋のストレッチングの補助として行う(写真20)。

膝関節伸展位・股関節伸展位

恥骨結合炎21

腸腰筋のストレッチング。腰部が反らないように臀部を押さえて行う(写真21)。

膝関節屈曲位・股関節屈曲位

恥骨結合炎22

大腿直筋のストレッチング。腰部が反らないように臀部を押さえて行う(写真22)。

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