肩関節脱臼 Shoulder dislocation

肩関節脱臼

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

肩関節脱臼

関節の安定性が低い肩関節では、後方の強い外力によって発生する肩関節脱臼が、ラグビー、アメリカンフットボール、柔道などのコンタクトスポーツで多くみられる

疾患の概要

疾患の概念

肩関節は一般的に、上腕骨の近位部(顔に近い方)にある丸い上腕骨頭と、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩〈かんせつか〉とからなる肩甲上腕関節を指します。人間の身体で最も関節可動域が大きいという構造的特徴をもつため、肩関節は骨による構造は浅く、関節包靱帯や筋肉(腱板))で関節周囲は補強されています。しかしスポーツなどによって強い外力が加わると、それが壊れ脱臼しやすい特徴があります。

原因・発生のメカニズム

受傷原因

受傷はラグビー、アメリカンフットボール、柔道、ハンドボールなどのコンタクトスポーツや、スキーやスノーボードによる転倒で多く発生します。
肩関節を挙上した状態(手を上げた状態)で後方に力が加わった場合や、後ろから手を引っ張られたり、後方に手をついて転倒したりした場合に、不安定な状態となった上腕骨頭が関節面を滑って脱臼します。脱臼型の多くは、上腕骨頭が身体の前面に移動する前方脱臼です(写真1)。
初回の受傷は後方への強い外力によって発生しますが、2回目以降は関節のストッパー構造(骨、靱帯、関節包)の摩耗により、初回よりも弱い外力で脱臼を起こすようになります。この傾向は回を重ねるごとに顕著になり、比較的軽微な外力でも再脱臼(反復性脱臼)しやすくなります。

症状

急激に発生する疼痛〈とうつう〉、腫張〈しゅちょう〉、変形、運動制限(ばね様固定)、合併障害として血行障害や神経麻痺〈まひ〉(肩や指のしびれ)がみられることもあります。

診断

レントゲンやストレス撮影で関節面の適合性を見ます。最近ではCTやMRI検査(写真2)によって、骨軟部組織の損傷程度を把握しやすくなりました。
また、関節の安定性に重要であるバンカート部位(Bankart:肩甲骨関節窩下縁前方、写真4)と、ヒル・サックス部位(Hill-Sachs:上腕骨骨頭後外上部)の損傷確認も必要です。

肩関節脱臼1

写真1 左肩関節脱臼時(白矢印は本来の骨頭の位置)

肩関節脱臼2

写真2 整復後のMRI画像。上腕骨周囲は出血による高信号(白色)化を呈している

肩関節脱臼3

写真3 左肩関節脱臼 整復後のレントゲン写真

肩関節脱臼4

写真4 関節辺縁の剥離骨折。いわゆるバンカート部位の骨折である

治療・リハビリ

治療

治療は保存療法と手術療法とに大別されます。初回受傷時では保存的に徒手整復後、上腕を下垂し、肩関節内旋位の状態で三角巾などを用いたデゾー固定(Desault:写真5)を3~4週間行い、局所の修復と安定性を図る保存療法を実施します。再脱臼時でも約3週間の固定を要します。初回時に十分な固定期間と適切なリハビリテーションを行なわないと、再脱臼を招き、反復化してしまいますので注意してください。
手術は一般的に、脱臼が反復化した場合に行われ、コンタクト競技復帰には術後約6ヵ月を要します。

肩関節脱臼5

写真5 スリングによるデゾー固定

予後

反復性脱臼は初回から2年以内の再発率が高く、6割が関節の不安定を訴えているのが現状です。
(2014米国整形外科学会より)

リハビリテーショントレーニング

受傷後は損傷部位に影響のない範囲で、手指の運動から始めます。受傷後1週間が経過したら、肩関節の内転・内旋位でのアイソメトリック訓練を開始し、3週間が経過したら、肩関節の90度挙上範囲内で軽い運動を行います。脱臼後のリハビリテーションのポイントは、壁や床を背にし、手が身体の前に位置する範囲内での上肢のトレーニングを行うことです。受傷動作となった肩関節前方挙上外転・外旋を伴う運動は、リハビリの最終段階(約6週間)まで禁止します。

代表例:25歳男性、国際大会出場選手

カヌーの国際大会の試合中に転没。オールに引っ張られて右肩関節前方脱臼を受傷した。数時間後に整復固定をして後日帰国したが、右手の第4・5指を中心とした知覚と運動の麻痺を伴った、腕神経叢〈そう〉麻痺を合併していた。
初回脱臼だったので、スリングによるデゾー固定を3週間行い、その後3週間は90度挙上範囲内での軽い運動や、プールでのトレーニングを行った。6週より壁を背にした状態でのオーバーヘッドスロー動作を含めた可動域訓練を開始、12週より競技復帰した。

トレーナーによる対処法解説

Hitoshi Takahashi

髙橋 仁先生

帝京平成大学地域医療学部准教授
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、はり・きゅう・マッサージ師

肩関節脱臼(トレーナー編)

現場評価・応急処置

肩関節脱臼はタックル、転倒などで肩関節が過度に外転・外旋を強制された際に発生します。脱臼すると腕を動かすことができなくなります。外見上も肩峰と上腕の間がくぼんだように見えるので評価は容易にできます。スポーツ現場で整復ができても合併症の確認などが必要なので必ず医療機関を受診させます。初回の脱臼後、治療やリハビリテーションが不十分だと反復性の肩関節脱臼に移行してしまう場合が多いので要注意です。

リコンディショニング

アスレティックリハビリテーション

肩関節脱臼(肩関節不安定症)のアスレティックリハビリテーションの目的は、関節可動域や筋力を獲得したあとに、関節の安定を獲得することにあります。関節を安定させる機能として、静的安定性を担う靱帯と動的安定性を担う筋肉とがあります。アスレティックリハビリテーションにおいては、動的安定性を高めることが重要となるため、単に筋力のみの向上だけではなく、固有受容器のトレーニングによって神経-筋協調性の向上が必要となります。


今回は、神経-筋協調性を向上させ肩関節を安定させる基本的なプログラムを紹介します。患部の状態や選手の不安感の有無に応じて段階的に負荷をかけていくことがポイントとなります。

固有受容器のトレーニング

固有受容器とは、関節包、靱帯、筋、腱、皮膚などに存在し、外からの刺激(触圧覚、痛覚、温覚など)や身体内部の状態(筋腱の長さ、関節の位置など)をキャッチするセンサーの役目を担っています。固有受容器はそれらの情報を中枢(脳)へ伝達し、中枢はその情報をもとに筋肉へ命令を出し、命令を受けた筋は反射的に運動します。
このような固有受容器→中枢神経→筋の反射機構(神経-筋協調性)の働きは、姿勢のコントロールや身体の保護(外傷の回避)、関節の安定などに深く関係しています。よって、靱帯や関節包を損傷して固有受容器に障害を起こすと、神経-筋協調性が低下し、スポーツ活動で生じる不意の外力に対して身体を守る瞬時の反応ができなくなります。
以上のことから、固有受容器のトレーニングはアスレティックリハビリテーションのみならず、外傷・障害予防で日頃から行うようにすると効果的です。

安定化トレーニング

各エクササイズを3分間、3~5セット行います。

背臥位

仰向けになり腕をあげます。トレーナーは手関節あたりを持ち様々な方向に外力を与えます。その際急激に大きな力や瞬間的に捻る動作は行わないようにします。選手がその位置を維持できるぐらいの力加減で行います。

肩関節脱臼1

手関節あたりを持ち様々な方向に外力を与える

〇四つ這い

次に四つ這いで行います。その際、肩甲骨が浮き上がらないように肩甲骨周囲に力を入れて固定します。

肩関節脱臼2

正しい姿勢

肩関節脱臼3

肩甲骨が浮き上がった悪い姿勢

トレーナーは肩関節あたりを持ち外力を与えます。また、選手がバランスを崩して転倒しないように気をつける役目もあります。慣れてきたバランスディスクなどを使い不安定な要素を加え段階をあげていきます。

肩関節脱臼4

肩関節あたりを持ち外力を与える。

肩関節脱臼5

バランスディスクは健側⇒患側⇒両側の順で使う

肩関節脱臼6

両側に置いたパターン

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