野球肩 Baseball Shoulder

野球肩

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

野球肩

野球のようにオーバーヘッドスローイング動作を伴うスポーツでは、肩関節に負荷がかかり、インピンジメント症候群や棘上筋腱炎などの肩関節障害が好発する

疾患の概要

疾患の概念

野球肩とは、投球動作によって発症した肩痛を主とする肩関節傷害の総称で、使いすぎ障害として徐々に発症する場合が多い。滑液包炎、棘上筋腱炎、上腕二頭筋腱炎、肩甲上神経麻痺による棘下筋萎縮、インピンジメント(impingement)症候群、上腕骨骨端線障害(リトルリーグ肩)など多くが含まれます。下肢体幹の筋力が上肢に伝わるため膨大なエネルギーが肩に加わります。最近は野球の技術指導において、球速を増すために加速期からフォロースルー期に前腕の回内動作を推奨していますが、肘関節が伸展した状態では肩関節の内旋が強調されやすくなります。筋力の弱いジュニア期や壮年期の選手には、棘上筋腱などに過負荷が加わり障害の原因となりますので注意してください。技術的に速い球を投げることと、解剖的な肩への負担とは相反しているといえます。

肩の解剖図

図 肩の解剖図

原因・発症のメカニズム

投球動作別受傷原因

野球の投球動作は、ワインドアップ期、コッキング期、加速期、リリース減速期、フォロースルー期の5相に大別され、それぞれの期において受傷原因が異なります。

投球動作

【ワインドアップ期】
ボールがグローブから離れるまでで、特別な肩への負荷は加わりません。

【コッキング期】
腕は体の後ろで肩の外転・外旋が強調されて、肩後方の三角筋、棘上筋、棘下筋、小円筋が収縮し、前方関節包や肩甲下筋は引き伸ばされて肩前面痛の原因となります。

【加速期】
手からボールが離れるまでを言い、肩の外旋→内旋の動きが強調されボールが加速します。広背筋、大胸筋、大円筋が収縮し、腕が前方に移動するときには、肘関節内側にも負荷が加わります。

【リリース減速期】
肩の内旋と前腕の回内が強調されて腕は体の前方に振り出されるため、肩後方の筋が収縮しつつ牽引されるというエクセントリックな力が生じます。よって、肩後方に痛みが発生したり、ときには肩甲上神経を圧迫(棘下筋萎縮の原因)したりします。

【フォロースルー期】
ボールが手から離れて投球動作が終わるまでを言い、腕が振り抜けて肩甲骨の外転が強調され、手指は遠心力によって血行障害を起こすことがあります。

診断

投球動作時の肩痛が主症状であるが、病変が多彩であるため、病歴や各種徒手テストを行ない特定する必要がある。
好発スポーツ
野球肩はオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で発症しますが、特に野球のピッチャー、キャッチャー、バレーボールのアタッカー、テニスのサーブ・スマッシュ時、アメリカンフットボールのQB、水泳(クロール、バタフライ)、ハンドボール、陸上競技のやり投などでも起こります。

類縁疾患

インピンジメント症候群

加速期に発生する肩の引っかかり症状の総称です。肩関節が90度以上外転した位置で外旋から内旋へ移行すると、上腕骨頭が肩峰、肩鎖関節、烏口突起、烏口肩峰靱帯などに衝突して、肩峰下滑液包や上腕二頭筋長頭腱の炎症、棘上筋腱の損傷を引き起こします。

リトルリーグ肩

若年成長期の選手が、投球動作の加速期に外旋から内旋の動きでストレスを繰り返し受けることによって、上腕骨近位骨端線の離開を生じる疲労骨折の一種です。成長障害の原因になりますので、ジュニア期のオーバーユースに注意しましょう。

補助診断

レントゲンによる骨変化、関節面の適合性チェック、関節造影に加え、MRIによる棘上筋腱の損傷や関節唇の変化などを調べる。

治療・リハビリ

治療

保存療法が基本であり、除痛や消炎目的で低出力超音波、低周波、低出力レーザー、アイシング、ホットパックなどの物理療法や、消炎鎮痛薬による除痛を試みます。疼痛が軽減したらストレッチングによる肩関節、肩甲胸郭関節(いわゆる肩甲骨)の可動域改善を行います。
また初期の段階では、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋などのインナーやアウターのマッスルトレーニングをアイソメトリックの状態で行い、その後は軽め(1kg)のダンベルやセラバンドを使用します(写真)。コドマンの振り子運動(1kgのダンベル)も有用です。最後に投球過多に注意して、投球動作のフォームチェックを行いましょう。
インピンジメント症候群では、肩峰下滑液包内にヒアルロン酸ナトリウムや、ときにはステロイドの注入が有効です。その後、棘上筋や三角筋のストレッチングを行いましょう。最近では関節唇損傷や腱板損傷時には、関節鏡視下でデブリードマン(滅創や感染創などの壊死部分や異物を除去すること)や、肩峰が引っかかる場合は肩峰の骨切除による除圧術を行う場合もあります。

肩関節と肩甲骨のストレッチング1

肩関節と肩甲骨のストレッチング1

肩関節と肩甲骨のストレッチング2

肩関節と肩甲骨のストレッチング2

軽めの負荷による肩の筋力トレーニング

軽めの負荷による肩の筋力トレーニング

Hitoshi Takahashi

髙橋 仁先生

帝京平成大学地域医療学部准教授
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、はり・きゅう・マッサージ師

野球肩(トレーナー編)

予防

オーバーユース(使いすぎ)が原因となります。投球過多や連投を避けることや日常のケア(投球後のアイシングやストレッシング)を行うことが必要です。また、投球動作は全身運動です肩関節に限らず、肘関節や股関節、体幹など周囲の関節の可動域や柔軟性を良い状態に保つこともポイントになります。

現場評価・応急処置

野球肩は投球による肩関節障害の総称です様々な症状が現れます。よって投球時に異変を感じたら投球を中止して医療機関を受診する必要があります。

リコンディショニング

予防でも触れましたが、日常のコンディショニング・ケアが必要です。ここでは、投球前後のストレッチングおよび肩甲骨の動きづくり(自動運動)について紹介します。

肩関節周囲筋のストレッチング

肩甲上腕関節のセルフストレッチングのほかには、トレーナーが肩甲骨を固定した状態でペアストレッチングを行います。肩甲骨を固定することで、肩甲骨と上腕骨の間を走行する筋を効果的にストレッチできます。

肩関節全体

野球肩

肩関節をいわゆるゼロポジションとし、トレーナーが腕全体を牽引して肩関節全体をストレッチする

肩関節全面

野球肩2

手を後ろで組んで胸を張り、肩関節全面をストレッチする

肩関節後面

野球肩3
野球肩4

90度に屈曲した肘をつかんで後方に引き寄せる。肩関節の角度を変えながら行う。

体幹の伸展との組み合わせ

野球肩5

バランスボールなどを利用し、大胸筋、腹筋などの体幹部を伸展させながら同時に肩関節全面をストレッチする

上腕三頭筋、大円筋、小円筋

野球肩6

トレーナーは、肩甲骨外側縁を固定する一方で、選手の肩関節を外転させる

三角筋後部、棘下筋(1)

野球肩7

トレーナーは、肩甲骨外側縁を固定する一方で、選手の肩関節を水平屈曲させる

三角筋後部、棘下筋(2)

野球肩8

トレーナーは、肩甲骨内側縁を固定する一方で、選手の肘を上から下へ軽く押していく

肩甲骨自動運動

肩甲胸郭関節の機能低下に対しては、肩甲骨の自動運動を行い、肩甲骨の動きを改善させます。これは、肩甲上腕関節の運動において、肩甲骨と上腕骨とが連動しているためです。運動は投球動作に重要とされる内転、上方回旋の動きづくりを中心に行います。

肩甲骨の内転

野球肩9
野球肩11

腕を前に出した一から後方へ引いていく。その際、肩甲骨を脊柱によせるようにする

肩甲骨の上方回旋

野球肩11
野球肩12

両手を後方へ引いた位置から(A)腕を上げていく(B)。その際、肩甲骨を引き上げるようにする。

関連する症例