肩腱板断裂 Rotator cuff tear

肩腱板断裂

ドクターによる症状解説

Naoya Nishinaka

西中直也先生

医学博士、日本整形外科学会認定専門医
日本肩関節学会代議員、日本体育協会公認スポーツドクター
日本整形外科学会認定スポーツ医

肩腱板断裂

肩甲骨と上腕骨をつないで肩関節を安定させている腱板という4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の断裂を指します。

疾患の概要

はじめに

肩関節は上腕骨骨頭と肩甲骨関節窩で構成されています。両者はまるで剣玉の大きな玉と小さい受け皿のような関係です。したがって関節の中で最も大きな可動域を有します。反面、関節の中で最も不安定な関節です。そこで腱板が重要な役割を果たしているのです。

症状

安静時痛・夜間痛を伴うことが多いですが、断裂の大きさや外傷のある、なしで異なってきます。
小・中断裂では上肢を挙げる時の引っかかり(インピンジメント)とともに刺激痛を生じることが多いです。筋力そのものはあまり落ちませんが、疼痛により力を発揮出来なくなります。
一方、大きい断裂の場合は上腕骨との連結が途絶されているため力を伝えることが出来ません【図1】。痛みとは関係ない筋力低下がみられます。また、腱板断裂は疼痛や可動域制限だけでなく、長期的には変形性肩関節症の原因になります。ほとんどが上方の棘上筋腱および棘下筋腱に起こり、次に前方の肩甲下筋の断裂を合併します。小円筋が断裂することはまれです。

【図1】

原因・発症のメカニズム

腱板断裂はその原因により大きく外傷性断裂と変性断裂に分かれます。
前者は外傷を契機に断裂するものをいい、後者は加齢的な要素が大きく影響し外傷歴なく断裂するものです。
変性断裂は無症状のまま断裂していることも少なくありません。実際、高齢者では外傷の既往を全く自覚していないことも少なくありません。いわば“いつの間にか腱板断裂”が生じていると考えられます。
また、外傷性断裂も変性を基盤としているため主に50歳以上の中高年に好発します。また、高齢になるほど腱板変性が進行するため、軽微な外力により断裂しやすくなります。
この他、投球を中心としたオーバーヘッドスポーツでは、オーバーユース(使いすぎ)により若年者でも腱板断裂を生じることがあります。

診断

通常のレントゲン画像では分からないことが多く、腱板が描出可能なMRIや超音波の画像検査により診断できます【図2】。
断裂の大きさ(小・中・大・広範囲断裂)や深さ(完全断裂、不全断裂)は様々です。

【図2】MRI画像
断裂部の輝度上昇(白く見える)が確認できます。

治療・リハビリ

保存療法では消炎鎮痛剤を中心とした薬物療法、ヒアルロン酸やステロイド剤の関節内注射、リハビリテーションがあります。
保存療法に抵抗し、継続する肩関節の夜間痛、挙上時の疼痛、挙上困難を認める場合は手術療法が選択されます。また、“いつの間にか腱板断裂”でなく、明らかな外傷による断裂は手術となるケースが多いです。
手術は、関節鏡視下にアンカーという骨に打ち込む楔によって修復する方法が主流になっています【図3】。アンカーは骨に置換されるものが多く使われています。術後は症状が安定するまで、3~6ヶ月を要します。

【図3】アンカー打ち込み手術

トレーナーによる対処法解説

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム GM
株式会社アスロニア ディレクター兼ヘッドコーチ
⽇本トライアスロン連合 マルチスポーツ対策チームリーダー

肩腱板断裂

予防

腱板とは肩の関節を安定させる働きをもった4つ筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)の総称です。肩関節は、他の関節と比べて、大きく自由に動く関節で、多くの筋肉や靭帯、腱により構成されていて、その分不安定な関節でもあります。腱板は、その安定性を保つために大切な役割をしています。
肩の動きには、肩甲骨の動きが伴い、肩の動きは必ず肩甲骨の動きがその一部を担っています。肩だけでなく、肩甲骨周辺にあるどれか一つの筋肉がうまく働かなかったり、柔軟性が低下したりすると、他の筋肉がその代わりに働くことになり、バランスを崩して負担を大きくしてしまいます。常に肩、肩甲骨の動きを良くするストレッチングを実施し筋肉の柔軟性を維持、向上させておくことは、ケガの予防になります。酷使した後は、アイシングをする習慣をつけましょう。
また、野球やバレーボール、ラケットスポーツなど肩をよく使うスポーツは、肩関節を安定させるためのトレーニングを積極的に行いましょう。肩への負担が少ないフォームでスポーツを行う事も重要です。フォームの修正も積極的に行う様にしましょう。
ストレッチングを日常的に行っていると、肩の柔軟性を常に評価する事ができます。柔軟性が低下してきたら、トレーナーなどの専門家に相談する事で悪化を防ぐ事ができます。

現場評価・応急処置

痛み、違和感があった場合には、痛みのある動きを中止し、できるだけ患部を動かさないでアイシングをして、できるだけ早く医師の診察を受けてください。
スポーツの現場でトレーナーがいる場合は、可動域のチェックやテストを行ってください。

リコンディショニング

医師からの指示に従い、運動が可能となったら段階的に肩を動かしてゆきます。
「コッドマン体操(五十肩のドクターによる症状解説参照)」や、「肩のトレーニング」で紹介している肩甲骨の動きを良くするトレーニングを痛みのない範囲で行います。動きにくい部分を意識し、丁寧に行う事がポイントです。
また、「肩・胸のストレッチング」を参考に行い、肩と肩甲骨周囲の柔軟性を向上させてください。
また、肩を安定させる筋群の機能を向上させるために、チューブや軽いダンベルを利用して 「肩腱板のトレーニング」を行ってください。肘を脇に固定して、90°曲げた状態で、図の様に内側に捻る動作、外側に捻る動作や、肘を肩と同じ高さに上げて同様の動作を行います。トレーニングが進んでも高い強度のチューブや重たいダンベルを使わずに、低強度で、関節の奥にある筋肉が使われている事を意識しながら行う事がポイントです。
肩から離れている股関節の柔軟性も影響する場合もあるため、全身のストレッチングを行う習慣をつけてください。

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