アイシング Icing

アイシング

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

アイシング

アメリカンフットボールなどで見られる激しいコンタクトプレーは、観客にとっては醍醐味の1つかもしれないが、選手の身体への衝撃は計り知れない。アイシングを含めた日常的なケアは不可欠

近年、日本でもトップクラスのスポーツ選手やアメリカンフットボールや野球などの競技では、運動後のアイシングは常識化してきました。しかし比較的早期にとり入れた全日本男子バレーボールチームでさえ、まだ約15年の歴史しかありません。中・高校生の間では、もっぱらケガをしたときの応急処置のみの使用が現状です。  しかしアメリカでは、高校生レベルでも練習後のアイシングはもとより、練習前のアイシングも常識化しています。
 そんなアメリカでのアイシングの実際を、ドクターとして研修する機会に恵まれた10年前に目にすることができました。カリフォルニア州サンディエゴをホームタウンとするMLBチームのサンディエゴ・パドレスと、NFLチームのサンディエゴ・チャージャーズの公式戦にベンチ入りさせてもらったのです。
 ピッチャーは球場入りしたらまずアイシングを行います。そして、ストレッチングをしてからアイシング、ランニングをしてからアイシング、投球練習をしてからアイシング、登坂後には細かく砕いた氷をバスタオルで包み、肘〈ひじ〉や肩関節全体を包み込むようにしてアイシングしていました。時間にして15〜20分です。各スポーツ施設には、アイシングで使用する氷を作る巨大な製氷機が立ち並んでいたのが印象的でした。

アイシングによる効果

(1)アイシングした患部(主に皮膚表面)の温度を低下させる。
(2)細胞の新陳代謝を低下させる。アイシングはケガの応急処置にも用いられるが、それは、冷却によって血流と組織レベルでの代謝が低下するため、ダメージを受けた組織の二次的な低酸素症を抑制することができるからである。
(3)局所の炎症が軽減する(腫張〈しゅちょう〉の抑制)。
(4)痛みを和らげる(神経の伝達速度を低下させる)。
(5)血液循環への影響。
(6)筋肉の緊張を和らげるリラクゼーション効果がある。
(7)医学的にはリハビリテーション開始時期に用い、治療期間の短縮、術後の疼痛〈とうつう〉緩和などの効果を期待している。

RICE(S)処置:急性外傷の応急処置でのアイシング

急性外傷への安静(Rest)、冷却(Ice)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)、固定(Stabilization)による効果を利用した、最も代表的な処置方法です。

運動前のアイシング

アイシングによって筋肉や関節の痛みに対する鎮痛効果(痛み閾値〈いきち〉の上昇)が得られますので、ウォームアップ時にはその効果を利用することで痛みを感じることなく始動できます。また、骨格筋内の感覚受容器である筋紡錘〈きんぼうすい〉の活動低下によって筋肉の緊張が緩和され、それに伴う可動域アップを目的としています。
 サーモグラフィを使っての皮膚の温度調査(写真1)では、アイシング後20分間とアイシング前とを比較すると、10℃以上の差がみられました。冷却効果が持続している時間内にウォームアップを開始すれば、疼痛を緩和した状態でより効果的な始動ができますので、スムーズに活動期へと移行できると考えられています。

アイシング2

写真 アイシング直後のサーモグラフィの変化

アイシングの注意

アイシングすることで局所の神経や筋の活動は低下していますから、アイシング後の運動はダッシュなどの俊敏な動作は行わず、ストレッチング(冷却とストレッチを組み合わせたクライオストレッチ)などの軽度なものにとどめるべきです。
 また糖尿病やアルコール性末梢神経炎などの局所の知覚神経鈍麻、リュウマチ、レイノー症(指先が冷えて白くなる)、局所の血管性循環障害をもつ人、冷却に過敏な人は要注意。アイシングによって凍傷を起こす場合があります。
 そして、前記の障害をもたない人でも、長時間冷やすと凍傷になる恐れがありますので、冷却部位に感覚がなくなってきたらアイシングを一時中断し、皮膚の温度や感覚が戻ってきてから再開してください。

冷却から温熱へ

アイシングから温熱療法に変更する目安は、(1)局所の熱感がない、(2)局所の腫れ(腫張)がない、(3)局所の発赤がない、(4)局所がうっ血、充血している、(5)アイシングによる効果が半減してきたとき、(6)選手が冷却より温熱を好む場合、(7)急性外傷期が過ぎて慢性期に入った場合、などです。

季節による変化

夏は、屋外で運動をすると酷使した筋肉などによって体温が上がりやすいので、アイシングによる冷却効果は得やすくなります。一方、冬は気温も低いので、練習後は素早く屋内に移動して、暖かい場所でストレッチングやアイシングを行いましょう。

トップチームにおけるアイシングの事例

筆者が担当したトップチームにおけるアイシングは、主に氷のうを用いて15〜20分間かけて行いました。利用部位は主に疼痛や熱感をもっていた(1)膝・(2)肩・(3)足・(4)肘関節の4ヵ所で、1名平均1.5ヵ所でした。なかには数ヵ所同時に利用した例もありました。運動後と運動前との比較では、登録選手12名全員(100%)が運動後に、12名中4名(33.3%)は運動前にもウォームアップの一環として導入していました。
 また、膝関節痛と足関節捻挫を抱えた選手2名(16.7%)については、循環式アイシングシステムを就寝中も活用して大変有用だったという報告がありました。

各部位でのアイシング

各部位でのアイシング。氷のう(アイスバッグ)の他にもクリッカーやアイスバケツなどを使用した方法がある。詳細はトレーナー編参照。

Hitoshi Takahashi

髙橋 仁先生

帝京平成大学地域医療学部准教授
日本体育協会公認アスレティックトレーナー、はり・きゅう・マッサージ師

アイシング(トレーナー編)

アイシングの方法

アスレティックトレーナーや選手が自ら行う、アイシングの方法を紹介します。また、アイシングに使用する既存のグッズは身近にある物で代用可能ですので、作り方、使い方など併せて紹介します。

アイスパック(保冷剤)

保管法:冷蔵庫(冷凍庫)で保管します。中身の保冷剤が硬くならないタイプがお勧めです。
固定:弾性包帯やアイシングラップで固定します。保冷剤を用いたアイスバッグは、凍傷に注意が必要です。表面に霜がついているような場合、冷蔵庫(冷凍庫)に長時間保管していて保冷剤が0℃以下になっている場合などは、しばらく常温に放置してから使用します。また、直接皮膚に固定するのではなく、アイシングする部分に弾性包帯で「下巻き」をしてから固定するとよいでしょう。

アイスパック(氷)

作り方:ビニール袋に氷を入れて作ります。腰に使用する場合は、ポリバケツ用の大型のビニール袋を使用するなどして、部位に応じてビニール袋のサイズを使い分けると便利です。(写真2)
使用するビニール袋の半分くらいまで氷を入れます。その後、中の空気を吸い出して抜き取ることがコツです。表面が平らになり、広範囲にわたって氷が患部に当たります。
固定:アイシングラップや弾性包帯を使って固定しますが、アンダーラップでも代用できます(写真3)。

アイシング1

写真1 空気を吸い出すことがポイント

アイシング2

写真2 アイシングラップ、弾性包帯、アンダーラップで固定

アイスバケツ

使い方:氷水を入れたバケツを使用します(写真4)。バケツを使用する場合の適応部位は、足・手・肘関節などに限られます。氷水を入れる容器のサイズを大きくすれば、下肢や前進のアイシングも可能です。

アイシング3

写真3 足・手・肘関節のアイシングにお勧め

クリッカー

使い方:キャップを外して氷を入れ、クリッカーをシェイクして使用します。使い方はアイスカップと同じです。アイスカップは氷が解けて水が流れ出しますが、クリッカーは水が流れ出ないので、冷たい水がしたたることはありません。腰部へのアイシングにお勧めです。(写真4)。クリッカーの滑りが悪いときは、潤滑剤として消炎鎮痛剤の軟膏を塗っておくとよいでしょう。

アイシング4

溶けた水が流れ出ないことがメリット

氷のう

作り方:製氷機で作った氷を入れて使用します。市販のロックアイスを使うときは、なるべく小さく砕いてから入れるとよいでしょう。息を吹き込んで袋を膨らませるとスムーズに氷を入れることができます。氷を入れたら、上から押さえて平らにする作業と同時に、中の空気を抜いていきます(写真5)。
固定:キャップは、キャップと袋の部分をそれぞれ反対方向に回すことで固く閉まりますから、扱いやすくなるでしょう。氷のうを患部に固定する再は、アイシングラップだけだとズレてしまうことが多いので、弾性包帯を使用します。このとき、溶けた水を捨てることができるようにキャップ部分は出しておきます(写真6)。
また、最近は固定用のサポーターと氷のうがセットで市販されていて、弾性包帯を巻く手間がかからないのでお勧めです。

アイシング5

平らにしながら空気を抜く

アイシング6

キャップ部分はラッピングしない

アイスカップ(アイスマッサージ)

作り方:紙コップや専用カップを使って氷を作り、アイシングする部位に当てます。紙コップは飲み口の部分を切り取って使用し、専用カップはキャップを取り外して使用します。
使い方:筋肉の場合は、筋の走行に沿って動かしていき、関節や靭帯の場合には、患部周辺に炎を描くようにまんべんなく動かしていきます(写真7)。

アイシング7

動かし方は部位によって変わってくる

注意点など

アイシングを行う際の注意点をあげます。アイシング中は寒冷刺激に対する体の反応に注意します。
①過敏症の場合
寒冷刺激に対して過敏症のある場合はアイシングは行わないようにします。過敏症とは、寒冷じんましんや血流低下によるチアノーゼ(皮膚が青紫色になる状態)などをいいます。

②凍傷
氷や保冷材の表面に霜がついているような場合は注意が必要です。その場合はしばらく常温で放置して(表面が解けてから)から使用します。また、アイシングの時間が長すぎる場合も凍傷をおこす場合があります。

③体温低下
広範囲や長時間のアイシングは体温の低下に注意します。特に、冬場や雨天時など体温が奪われやすい状況ではさらなる注意が必要です。