熱中症と水分補給 Heat〈sun〉stroke & hydration

熱中症と水分補給

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

熱中症と水分補給

応急処置には、電解質を含んだ水分の補給や身体を冷やすことが重要なのでぬれタオルで冷やしながら扇風機で風を当てましょう

疾患の概要

熱中症とは、(1)高温、(2)多湿、(3)無風、(4)直射日光の当たるグラウンド、(5)通気性の悪い体育館、などの劣悪な環境下で激しい活動を行ったときに生じる疾患の総称で、スポーツ障害のなかでは最も重症度が高く、死亡例も散見されています。真夏の練習中に水を飲ませない根性論は論外で、指導者の理解が大切です。
 いわゆる日射病は、現在では熱中症と呼ばれています。昔から「暑気あたり」「鬼の霍乱〈かくらん〉」などともいわれています。脱水、体温上昇、電解質バランス障害、血液循環障害などの病態によって起こります。  旧厚生省の人口動態統計によると、1970年から90年までの20年間で1450人が熱中症で死亡しています。また、死には至らなかったものの、熱中症を発症した件数はその20倍以上ともいわれています。スポーツ活動中でも発生しており、スポーツ障害のなかでは最も致死率の高い障害です。

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写真 疲労困憊した選手は、レース中、エイドで簡単な処置を受けることができる

発生時期

熱中症は4〜9月と幅広く起こりますが、7〜8月に圧倒的に多数発生します。事故の発生時刻は10〜14時に多く、10時以前や18時近くに起こるケースもあります。発生に至る練習時間は4時間以内が顕著ですが、1時間以内(ランニングなど)で起こることもあるので注意してください。

好発種目

競技人口が多く、屋外で行う野球で好発します。以下ラグビー、サッカー、柔道、登山、剣道、バレーボールと続き、マラソンやトライアスロンでも発生しています。実際には、長時間のランニングによる発生率が最も高いようです。また、直射日光とは関係のない屋内スポーツでも発生しますので注意してください。体育館は通気性が悪くて温室状態なので、外気温ほど高くなくても発汗の妨げとなり、熱中症が発生しやすい環境にあるといえます。

性差・年齢

男子が9:1で圧倒的な割合を占めています。年齢は高校1、2年生に多く、以下、中学生が続きます。小学生が意外と少ないのは、事故発生に至るとされる時間まで体力がもたないせいでしょうか。

分類

熱中症は大きく分けると、熱失神、熱疲労、熱ケイレン、熱射病、の4つに大別されます。
(1)熱失神:皮膚血管の拡張による循環不全で血圧が低下する。脳に血液が行かなくなり、顔面蒼白、めまい、失神、呼吸回数の増加などが起こる。
(2)熱疲労:皮膚や筋肉などの末梢血液量の著明な増加に対し、心臓からの血液供給が間に合わずに末梢循環不全に陥る。発汗による脱水で疲労が助長され、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみられる。
(3)熱ケイレン:大量に汗をかいて水だけを補給していると、血液中の塩分濃度が低下(ナトリウム欠乏脱水)して、足、腕、腹部の筋肉痛やケイレンなどが起こる。マラソン中に足が突っ張って走れなくなるのも、ナトリウムの欠乏が原因である。
(4)熱射病:最も重症な状態。体温の上昇で脳の中枢機能に異常をきたし、意識障害が起こる。うわごとを言ったり、呼んでも答えなかったりするなどの症状がみられる場合には、死亡率が高い。

初発症状

軽症:喉の渇き、筋肉ケイレン。中等度:頭痛、めまい、脱力感、吐き気、顔面蒼白など。重症:皮膚が熱くなり乾燥する、40度を超える著明な高体温、傾眠、見当識消失、意識障害、ショック状態などの非常に危険な状態がみられる。

応急処置

電解質を含んだ水分の補給や、身体を冷やすことが最も重要ですので、できる限り早めに行いましょう。直射日光の当たらない木陰などに足を高くして寝かせ、表面(首、脇下、大腿部の付け根など、血流の表面化している所)を氷やぬれタオルで冷やしながら風を当ててください。吐き気、高体温、意識がもうろうとしているときは、すぐに病院に運びましょう。酸素吸入や生理食塩水の点滴が有効で、倒れてから治療を行うまでは一刻の猶予もありません。

水分補給の実際

練習開始前から水分補給(約500ml)をしていないと間に合いません。給水の基本として、20分に1回は水分補給タイムを設けましょう。1時間練習で3回、2時間練習で5〜6回、1回に200〜300mlを目安として1時間で600〜1000mllの水分を補給します。NFLでは常時飲水できるように、給水車がグラウンドを回っています。

体重減少

運動後の体重減少は危険信号です。体脂肪が減ってよかった、などと簡単に思わないでください。発汗によって水分が失われた分の体重減少ですから、それだけ脱水状態であるといえます。体重制限のある競技ではすでに身体の水分を絞っているため、より脱水しやすい状態になっています。注意してください。


暑いときは、とにかく水を飲むこと

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写真 電解質脱水による典型的な熱ケイレンによって、全身が板のように硬直した選手

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写真 レース後、脱水状態となって熱失神を起こした選手。救護室に搬送され、全身の冷却と酸素・点滴治療を受ける

水分補給の実際

トップレベルチームでは2時間の練習で3〜4回の休息がありますが、ドリンクタイムは各自の判断でとることができます(写真4)。

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写真 バレーボールチームでの水分補給

予防

25℃以上の環境下では要注意。運動前から水や電解質の入った水分補給を行いましょう。運動後の体重減少の多くは発汗によって水分が減少したからであって、それだけ脱水状態にあるということです。体重制限のあるスポーツでは脱水になりやすいので、体重変化などに注意してください。
 また、軽快な服装で風通しをよくし、睡眠不足や体調不良の状態で練習に臨んだり、あるいは炎天下に長時間いたりするようなことは避けましょう。

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム ヘッドコーチ、日本体育大学トライアスロン部 ヘッドコーチ、日本トライアスロン連合 マルチスポーツ委員長

熱中症と水分補給(トレーナー編)

予防

熱中症の予防は、選手、指導者が熱中症に関する知識を十分に理解しスポーツを行う前に、可能な限りそれらに対応するための準備をすることが、最大の予防策です。まずは、熱中症に関して理解度をあげてください。


1)数日間の気温、湿度の変化をチェックする
2)睡眠時間や体調、体重、疲労度のチェックする
3)開始時までの水分補給
4)服装
5)1)~4)に合わせてトレーニング計画を修正する(環境、時間、強度、場所、休憩と水分補給)
トレーニングを始める前までに上記項目の確認、準備をしておくことで多くの熱中症を防ぐことができると思います。

暑熱順化

人間の身体は、夏の暑さに慣れ、冬は寒さに慣れていきます。自然の環境(気候)に身体機能を適応させることを順化〈じゅんか〉といい、特に、暑さへの順化を暑熱順化(以下順化)といいます。順化すると血流量や汗の量が増加したり、体温の上昇をコントロールしやすくなったりします。
 順化するためには、同じ環境で7日程度活動することが必要です。よって、梅雨の前後(5~6月)を境に、気温、湿度が急に高くなる時期や、場所の移動などで順化できていない状態での運動の強度や量の増加は危険です。強度や時間は、体力や気温の変化によって段階的に増やしていきましょう。
睡眠時間や体調が熱中症の発症に大きく影響します。運動を始める前に、睡眠時間や体調のチェックを行い、蓄積疲労があったり、体調がすぐれない、睡眠不足があったりする場合には、運動を中止するか、強度や量を減らすようにします。
また、前日の運動や運動を始めるまでに汗を大量にかいていて、十分な水分補給ができていない場合には、十分な水分補給を行ってから、運動を始めるようにします。
できれば、起床時、運動前、運動後、就寝前に体重を測定し、汗をかいて喪失した水分量を具体的に把握して、必要な分を飲むようにすると良いでしょう。急激な体重減少は、水分補給ができていないということです。

発汗による体温調節

スポーツ活動時には汗が出ますが、その汗は体表から蒸発するときに熱を奪い、体温を調節しています(熱放散)。この性質を利用し、熱放散と水分補給を効率よく行い、熱中症を予防します。
熱放散は運動時の衣服と関係があります。熱放散を効率よく行うためには、体表面をできるだけ露出して乾かしておくことがポイントですので、通気性や速乾性に優れた素材を選び、できるだけ軽装で行います。「濡れているから熱を下げる」のではなく、「蒸発させる」ことが大切です。皮膚の上に残った水分は、汗を手でぬぐうことで蒸発しやすくなります。特に発汗は頭部、胸部、腹部に多いので、通気性をよくし、汗がたまらないように注意します。アメリカンフットボールや剣道などの防具を使用する競技では、休憩時には防具を外し、こもった熱を逃がしましょう。

水分補給の方法とその準備

水分は練習(試合)前・中・後のタイミングで補給できるように準備をします。自転車やランニングの長距離種目は、ボトルを持参したり、トレーニングコースに水道がある公園や自動販売機やコンビニエンスストアなどがあるコースを設定したりします。
1回に飲む量を少量(コップ1杯200ml)にしてガブ飲みしないように気をつけましょう(表3)。補給する水分は、冷たい水やスポーツドリンクが適しています。緑茶、コーヒー、コーラなどのカフェインを含むものは、カフェインによる利尿作用で身体の水分が減少してしまうので、練習前に大量に飲むことは控えましょう。練習中は1時間に400~800ml、1回にコップ1杯を目安とし、練習後は次の練習へ向けて、
汗として消失した分の水分補給を胃に負担をかけないようにすることが必要です。
運動中の発汗量は、1時間に2リットルにも及ぶことがあります。発汗量は、人それぞれですが、体重の2%以上になると運動能力、競技成績に影響してきますので、注意が必要です。喉の渇きに応じて、消失した分に合わせて水分補給ができるような環境にすることがポイントです。
さらに、水分補給が十分できているかを確認する習慣をつけてください。
尿の色と練習前後の体重チェックで判断します。濃黄色の尿は水分不足のサインで、練習後の体重減少量は、失われた水分(汗)量とほぼ同じです。体重の23%を目安にし、運動前後の体重と運動中に飲んだ水分の量を確認して、その評価をしてください。体重の2%は、体重50kgで1kg、70kgで1.4kgです。トレーニング前後でこれ以上の差がある場合には、十分でないということです。
ただし、水を取りすぎてしまうことによる弊害もあります。低ナトリウム血症といい、水分の過剰摂取により体調を崩し、死亡例も確認されています。以前は、「喉が乾く前に多めに飲む」という指導の仕方でしたが、低ナトリウム血症の予防も考慮して「喉渇きに応じて飲む」という指導方法が推奨されています。
気温、湿度、運動時間、強度によって適度な水分補給ができるために、運動前後の体重チェックと尿の色を確認し、飲んだ水分とのバランスを確認する習慣をつけましょう。
おおよその目安としては、1時間で400~800mlを目安として、それを数回に分けて飲むようにしてみてください。


飲み物の温度

摂取する水分の理想的な温度は、常温、もしくは5〜15℃だといわれていますが、夏場は少し冷たい水を用意するとよいでしょう。特に炎天下で競技をしなければならない場合には、競技中にちょうどよい冷たさとなるようにあらかじめ凍らせておくと、水分補給だけでなく、頭からかぶるための水としても利用できます。
 ただし、氷が溶けない場合や、早く溶けてぬるくなってしまう場合も考えられますから、試合当日の気候を予想した上で、競技スタートのどのくらい前に冷凍庫やアイスボックスから取り出しておけばよいかを、前日などに検討しておく必要があります。また、保冷用のボトルも販売されていますので活用してみましょう(写真)。

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写真 保冷ボトルは二重構造になっていて、保冷効果が通常のものよりも高い

水分の種類は

選手に一番好まれているのは“水”のようですが、汗と一緒に多量のミネラルが放出されていますから、水分補給の際には塩分を含んだものを補給してください。理想は塩分濃度が0.1〜0.2%、糖度が3〜5%だといわれていますから、市販のスポーツドリンクを水で半分ほどに薄めて利用してみましょう。濃さは、運動中に飲みやすいように各自で工夫してください。一般的には、スポーツドリンクを水で半分程度に薄めるとよいといわれています。スポーツドリンクが苦手な人は、ミネラルを多く含んだ天然の塩をほんの少しなめて水を飲むとよいでしょう。

気温、湿度に応じたトレーニング計画の変更

気温や湿度が高い環境下では、トレーニングの強度、量、スタート時間、場所を変更したり、水分補給や体を冷やすための休憩時間を設けるなど臨機応変な対応をしてください。
熱中症予防の温度指標として、WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature 表2) が用いられます。
また、日陰、涼しい場所などに変更ができる場合は、場所を移したり、涼しい早朝や夕方や夜間に時間を変更することも有効です。

汗を蒸発しやすい服装

運動中は、熱放散のための皮膚への血液確保と、運動を続けるための筋肉組織への血液確保が同時に行われ、運動のための筋血流と体温調節のための皮膚血流との間で血液の奪い合いがおこります。よって、できるだけ皮膚の温度を下げ、汗が蒸発しやすい環境を作ってあげることで、運動のパフォーマンスにも影響してきます。衣服で覆われる面積に比例して熱の放散の効率が下がります。なるべく体を覆う部分が小さい薄着の方が熱は放散しやすくなります。また、四肢は体幹部よりも熱放散効率が高いため、できるだけ四肢を露出したほうが効果的です。また、すぐに汗が乾く素材のシャツを着用することで、蒸発による体温調節を助けてくれます。

表1.運動強度と水分補給のめやす(文献2より引用)

注意
1.温度条件によって変化しますが、発汗により体重減少の70〜80%の補給を目標とします。気温の得に高いときには15〜30分ごとに飲水休憩をとることにより、体温の上昇がずいぶん抑えられます。
2.水温は5〜15℃がのぞましいでしょう。
3.組成はまず口当たりがよく飲みやすいものとします。それには、0.2%程度の食塩と5%程度の糖分を含んだものが適当です。

選手教育とコーチングスタッフへの情報提供

上記の内容を選手、コーチに共有し、体調管理や水分補給の方法など、熱中症の予防方法について教育し、自己管理の重要性を伝え、練習時の環境情報を伝え、必要であれば練習内容の調整を行います。

現場評価。応急処置

応急処置

スポーツの現場では症状が複合していて評価が難しい場合があるので、軽症だと思われる場合でも、指導者、トレーナーが経過観察を必ず行います。評価のポイントは意識障害の有無で、少しでも異常が認められる選手を1人で休ませておくことは厳禁です。
 意識がある場合は涼しい場所に運び、衣服を緩めて頭部、頸部、そけい部(大腿部の付け根)を氷があれば、氷、濡れたタオル、直接水をかけるなど身体をぬらして、ウチワやタオルなどであおぎ、熱を放散させます。して冷やし、生理食塩水やスポーツドリンクを飲ませます。そして、経過観察をしながら、しばらく休ませます。意識がはっきりしない場合や、飲み物を受け付けないような状態や徐々に意識がなくなっている場合には、救急車を呼びます。

表2.熱中症予防のための運動指針

WBGT(湿球黒球温度)
屋外:WBGT=0.7×湿球温度(湿度)+0.2×黒球温度(輻射熱)+0.1×乾球温度(気温)
屋内:WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

○環境条件の評価はWBGTが望ましい。
○湿球温度は気温が高いと過小評価される場合もあり、湿球温度を用いる場合には乾球温度も参考にする。
○乾球温度を用いる場合には、湿度に注意。湿度が高ければ、1ランク厳しい環境条件の注意が必要。

参考・引用文献
1)エドワード・フォックス著、渡辺和彦訳:『スポーツ生理学』、大修館書店、1982年
2)川原貴ら:『熱中症対策ハンドブック』、(財)日本体育協会、2000年

実践編

写真 自分で用意したボトルを手に持ち、さらにエイドステーションの水を補給する選手(トライアスロン宮古島大会)