夏バテとスポーツ貧血 Heat exhaustion & Anemia

夏バテとスポーツ貧血

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

夏バテとスポーツ貧血

比較的ハードなスポーツを継続するトップレベルの選手は、スポーツが原因で起こるスポーツ貧血を起こしやすい傾向にある

夏バテのシーズンですが、一口に夏バテ(暑気当たり)といっても熱中症、脱水、体力消耗、貧血、食欲不振、日焼け(火傷)など、さまざまな原因が挙げられます。なかでもこの時期、特に気をつけたいのがスポーツ貧血です。
 スポーツ貧血とはスポーツが原因で起こる貧血であり、比較的ハードなスポーツを継続する選手に起こりやすい傾向があります。汗(夏は特に多くなる)、尿(血尿が出るまで練習しろと叫ばれていた時代があった)、便(陸上長距離選手特有のタール便)に排泄〈はいせつ〉されるヘモグロビン鉄の消失による鉄欠乏、マラソン・バレーボール・バスケットボールのように足底へ繰り返し衝撃がかかるスポーツや、剣道のように身体に衝撃がかかるスポーツでは、同部分で血液中の赤血球が破壊される溶血(行軍血色素尿症)が原因となって貧血が起こります。また、運動急性期に血液が薄まる(血漿〈けっしょう〉増加)、見せかけの貧血などもあります。  特に成長期の運動選手では、鉄は、血液を作る以外に、筋肉や骨格などの身体を構成する組織づくりにも使われます。つまり、いくらあっても足りない状態にあるということです。さらに成長期の女子選手では、月経による失血が加わって貧血を増長しますので、成長期の選手管理には特に注意を要します。

症状

易疲労感(疲れやすい)、食欲不振、全身倦怠〈けんたい〉感(だるい)、頭痛、動悸〈どうき〉・息切れ(高地に行ったときの感覚)、眼瞼〈がんけん〉結膜蒼白(アッカンベーの状態でまぶたの裏が白い)、爪の変形、ボーッとして集中力が低下するなどの症状がみられ、記録の低下や伸び悩みにつながります。

トップレベル

筆者が担当した日本代表選手のメディカルチェックでは男子選手の約10%、女子選手の約20%に貧血が認められています。男子選手は18名中2名(11.1%)が、女子選手では18名中4名(22.2%)に血液検査上での貧血が認められています。そして、血液検査には引っかからなくとも、貧血状態にある選手は数多く存在しているものと思われます。これと比較して、一般成人男子では約5%以下、女子では約10%以下と、運動選手の約半分の割合となっています。

血液検査上の指標

末梢血液中の赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリットが低値となる低色素小球性の貧血像を呈し、血清鉄の減少、総鉄結合能(TIBC)の増加、血清フェリチンの減少、血清鉄の減少などが見られます。

貧血のパターン

貧血の第一歩である「鉄欠乏状態」では、貯蔵鉄が減少してきますが、末梢血液検査上では正常値を示します。そして、「軽度の貧血」では次第に組織の鉄や血清鉄も減少していきます。最終段階の「鉄欠乏性貧血」になると、赤血球のヘモグロビン鉄や血清鉄が極度に減少してきます。

種目による頻度

陸上長距離選手(特に女性)、バレーボール、バスケットボール、剣道、新体操といった、長い距離を繰り返し走る、ジャンプを繰り返す、身体をぶつけるスポーツに多いようです。

治療

貧血状態では、食生活の改善(76ページからの「スポーツ119」参照)とともに鉄サプリメントを使用することもよいでしょう。鉄欠乏性貧血の診断が下れば、鉄剤の経口投与が第1選択となります。その際、鉄吸収効果が上がるビタミンCやタンパク質を併用しましょう。また、練習時間や内容の検討も行ってください。

代表例1

15歳男子バスケットボール選手。夏に体育館で1日3時間の練習を週4日間続けたところ、1ヵ月後の練習中に横にならなければならないほどの全身倦怠感が出現した。当初はサボリだとみなされていたが、症状が継続するために肝炎の疑いで血液検査したところ、鉄欠乏性貧血の診断。約1ヵ月の運動休止と鉄剤投与で倦怠感も消失し、検査値も正常化したのでスポーツに復帰したが、同様の症状は夏に出現するため、夏には鉄サプリメントを使用するようになった。

代表例2

17歳女子陸上長距離選手。1日約20kmのランニングを約1年半継続していたが、記録が伸びなくなってきた。生理が止まり練習時の集中力も低下してきたため、病院を受診して血液検査を行った結果、ヘモグロビン値は9.5g/dl、血清鉄は40g/dl、総鉄結合能は420g/dl、鉄飽和率は10%と、極度の鉄欠乏性貧血であった。

トレーナーによる対処法解説

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム GM
株式会社アスロニア ディレクター兼ヘッドコーチ
⽇本トライアスロン連合 マルチスポーツ対策チームリーダー

スポーツ貧血

予防

「思ったように走れない。」「持久力がなくなった」「集中力がない」と感じたら、スポーツ貧血を疑います。心肺持久力の必要なスポーツ種目は、スポーツ貧血になるとパフォーマンスに大きな影響を与えてしまいます。心肺持久力が必要な運動は、「有酸素運動」と言われるように、酸素を必要とします。体内に酸素を取り込み、それをエネルギー代謝に利用して、筋肉を強く、長く動かし続けます。血中にあるヘモグロビンが酸素を身体中の筋肉に運んでいます。マラソンや水泳、トライアスロンの選手が、ヘモグロビンの濃度を高めようと標高の高い低酸素環境下でトレーニング(高地トレーニング)をするのは有名な話です。
ところが、スポーツにより汗を大量に書くと、汗と一緒に鉄分が体外に放出されてしまいます。また、ラニングによる着地衝撃で足裏の毛細血管にあるヘモグロビンが壊されてしまいます。発汗、衝撃によって、必要な鉄分が喪失されてしまうのです。
よって、スポーツ選手は、ヘモグロビンの材料となる鉄分を多めに摂取することが大切です。特に女性は、生理がありますので注意が必要です。血液検査のヘモグロビンや、ヘモグロビンに変化する前の段階のフェリチンの値が高い必要があります。常に貧血を疑うつもりで、定期的な検査をし、必要であれば、医師に鉄剤の投与など治療を受けましょう。

日常から鉄分を多く含むレバー、あさり、しじみ、牛肉、マグロ、ひじき、小松菜などを多く食べるようにすること。鉄分の吸収を助けてくれるビタミンCやクエン酸を多く含むもの。体内で赤血球の合成を助ける働きのあるビタミンB6や動物ビタミンB12・葉酸を多く摂取できるような食事をとることが大切です。貧血だけに注目せず、スポーツ選手は特に栄養バランスを考えた食事をとることが大切です。必要であれば、鉄やマルチビタミンのサプリメントを利用してください。
鉄は食事でしっかり摂ってもヘモグロビンに変化するまでに時間がかかります。鉄やビタミンなどバランスを考えた食事を、長い期間続けることができるように工夫しましょう。

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「ザムスト-ZAMST」は、医療メーカーとして整形外科向け製品を開発・製造する日本シグマックス㈱が展開するスポーツ向けサポート・ケア製品のブランドです。

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