【Vol.6】古川美和子編集長(後編)

トップアスリートの言葉は強い

トップアスリートの言葉は強い

「これは私、個人の経験なのですが、高校や大学に進み競技レベルが向上するにつれてバレーボール雑誌を読まなくなったんです。当時はチームの監督の指導が第一。だから、あまり技術を紹介するような記事を好んで読もうとは思わなくなってしまいました。でも、やっぱり選手たちにも読んでもらって力にしてほしかった。それは月刊バレーボール編集部に入ってからずっと念頭に置いているテーマなんです」

幼少期からの夢を叶えて、『月刊バレーボール』編集部に入ることができた古川美和子さんは、「選手にとって力になる雑誌にしたい」という思いを抱きながら日々雑誌作りに励んでいます。

「取材させて頂く中で感じるのは、選手たちの言葉はとても強いということ。部活生にはもちろん、サラリーマンの人にも、現役の選手たちにも届けられる強い言葉だと思っています」

たとえば、かつてデンソー・エアリービーズで活躍した櫻井由香さんの言葉。

「彼女は37歳まで現役で活躍した選手ですが、全日本に選ばれて合宿にいくたびに何度もメンバーを外れチームに戻されるような経験を繰り返してきた選手なんですね。でも、彼女はついに北京五輪の代表選手に選ばれた。後日彼女が『我慢してやっていればご褒美がもらえるんだな』って。頑張っていればいつか報われる。諦めないことが本当に大事だなと痛感させられたエピソードです」

また、選手のなかには天性の感覚でプレーしているために、自分のプレーを言葉で表現することが苦手な選手もいるそうです。全日本女子のキャプテンを務める木村沙織選手もその一人。

「木村沙織選手は天才肌の選手で、彼女自身も『自分のプレーについては言葉で表すのは苦手』とおっしゃいます。そういうタイプの選手は結構多いものです。その貴重な経験や技術を私たちがなんとか言葉に変換して伝える。とても難しいのですが、それも私たち編集者の大事な使命だと思いますね」

トップ選手たちの真面目さやこだわりの強さを見習ってほしい

トップ選手たちの真面目さやこだわりの強さを見習ってほしい

選手たちの言葉を丹念に拾って、愛情を込めて誌面に落とし込んでいく。そういう作業を日々繰り返していくからこそ、選手たちとの信頼関係が固く結ばれていくというもの。古川さんはある選手とのエピソードをこう明かします。

「以前、ある選手に『何をしたら月バレ(月刊バレーボールの愛称)の表紙に載せてくれますか? 日本一になったら? 五輪出場を決めたら?』と言うので『そのどちらでも大丈夫だよ』と答えたときに『わかりました、私、頑張ります』と言ってくれたことがあります。とてもうれしかったですし、この雑誌が、選手たちの気持ちを少しでも盛り上げて、それがひいてはバレーボール界の盛り上がりにつながればいいなとすごく思います」

これまで数え切れないほどのたくさんのトップバレーボール選手たちと間近に接してきた古川さんは、現役部活生が真似してほしい点を次のように挙げてくれました。

「トップ選手たちの何事に対しても真面目に取り組む姿勢やこだわりは本当にすごいと日々感じています。 たとえば、以前、木村沙織選手と一緒に彼女のフォトエッセイをつくったことがあったのですが、その校了間際になって 彼女が『ハートの位置はもうちょっとここかな』『この色はオレンジがいいと思う』などと最終段階になっても1ページ ずつ細かい指摘を粘り強く繰り返していたんです。

私の立場としては、すでに印刷所の方を待たせてしまっていることもあり、少々焦っていたのですが(笑)、でも、 やっぱり出来上がったものはみんながすごく納得できるものになっていて、読者にも好評でした。 彼女はバレーボールのプレーに対しても、すべての事に関して、同じ姿勢で向き合っているんだなと感じました。自分がこれだと思ったことは 一切妥協しない。意志が弱ければできないことですよね」

部活生には好きなことを追求して、諦めないでほしい

部活生には好きなことを追求して、諦めないでほしい

長年、『月刊バレーボール』編集部の一員として雑誌作りに携わってきた古川さんは、昨年5月から同誌の編集長に就任。創刊70年ほどを誇る老舗雑誌として初めて女性の編集長として抜擢されました。

少し大げさかもしれませんが「1ページも妥協したものをつくりたくないという思いがありますね。それが月刊バレーボールが昔から持ち続けている精神だと思っているからです。私が小学生のときに巻末の編集後記までむさぼり読んだように、『この情報はどこから仕入れてきたんだろう?』と思わせるくらい、隅から隅まで読者を楽しませるものにしたい。選手のみんなが喜んでいる写真にしても、みんなが背を向けていたりしているものを載せてしまっては本人たちも読者も喜べませんよね?

活躍して頑張っている高校生が2人いるならば、なんとかその2人とも原稿に入れてあげたい。そのおかげで、やや原稿が長くなったり読みづらくなったりしてしまうこともありますが(笑)、でも、その辺りはうまく折り合いをつけてみんなが喜べるものにしたいんです」

日々雑誌作りに邁進するエネルギーの源については「バレーボールに対する愛情だけですね。それだけは自分のなかにあると思っています」と話してくれた古川さん。最後に部活生へのアドバイスを求めるとこう締めくくってくれました。

「好きなことがあったらとことん追求すること。私が部活生の頃はあまり勉強はしませんでしたが(笑)、月バレをむさぼるように読んでいたことが今の仕事に本当に役に立っているんですよ。あとはやっぱり諦めないこと。これは私も選手たちに教わったことですが、諦めないで粘っていれば必ずいいことがあるはず。私はたった一回、春高予選に負けただけでバレーボールは諦めてしまった。今、思えばとてももったいないと思います。部活生も決して悔いが残らないように、何事も諦めないで日々を精一杯過ごしてほしいと思いますね」

部活生として頑張っているあなたの好きなものはなんですか? 
無心になって探求できるものはなんですか? 
それこそが、誰にも負けることのない自分だけの道を
作っていく手がかりなのかもしれません。

企画・株式会社イースリー 文・鈴木康浩 写真・平間喬

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