鉄人に聞け!肩関節脱臼

症例解説Body & injury

Shoulder

肩関節脱臼Shoulder dislocation

  • 原因や治し方(医療編)
  • 予防や対処法(トレーナー編)
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疾患の概念

肩関節は一般的に、上腕骨の近位部にある丸い上腕骨頭と、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩〈かんせつか〉とからなる肩甲上腕関節を指します。人間の身体で最も関節可動域が大きいという構造的特徴をもつため、関節周囲は靱帯や筋肉で補強されています。しかし、その補強が十分でないことから関節の安定性は低く、スポーツなどによって強い外力が加わると脱臼しやすい特徴があります。


受傷原因

受傷はラグビー、アメリカンフットボール、柔道、ハンドボールなどのコンタクトスポーツや、スキーやスノーボードによる転倒で多く発生します。
肩関節を挙上した状態(手を上げた状態)で後方に力が加わった場合や、後ろから手を引っ張られたり、後方に手をついて転倒したりした場合に、不安定な状態となった上腕骨頭が関節面を滑って脱臼します。脱臼型の多くは、上腕骨頭が身体の前面に移動する前方脱臼です(写真1)。
初回の受傷は後方への強い外力によって発生しますが、2回目以降は関節のストッパー構造(骨、靱帯、関節包)の摩耗により、初回よりも弱い外力で脱臼を起こすようになります。この傾向は回を重ねるごとに顕著になり、比較的軽微な外力でも再脱臼(反復性)しやすくなります。


症状

急激に発生する疼痛〈とうつう〉、腫張〈しゅちょう〉、変形、運動制限(ばね様固定)、合併障害として血行障害や神経麻痺〈まひ〉(肩や指のしびれ)がみられることもあります。
レントゲンは最も有用な検査で、脱臼や骨折を確認することができます。関節包や靱帯の損傷には、関節造影やストレス撮影が有用で、最近ではCTやMRI検査(写真2)によって、骨軟部組織の損傷程度を把握しやすくなりました。
また、関節の安定性に重要であるバンカート部位(Bankart:肩甲骨関節窩下縁前方、写真3)と、ヒル・サックス部位(Hill-Sachs:上腕骨骨頭後外上部)の損傷確認も必要です。

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治療

治療は保存療法と手術療法とに大別されます。初回受傷時では一般的に、上腕を下垂し、肩関節内旋位の状態で三角巾などを用いたデゾー固定(Desault:写真4)を3~4週間行い、局所の修復と安定性を図ることで保存療法を実施します。再脱臼時でも約3週間の固定を要します。初回時に十分な固定期間と適切なリハビリテーションを行うことにより、再脱臼を予防し、反復化させないことが肝心です。
一般的に手術は脱臼が反復化した場合に行われ、競技復帰には術後約6ヵ月を要します。

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予後

30歳以下の再脱臼率は、約30%と高率です。


リハビリテーショントレーニング

受傷後は損傷部位に影響のない範囲で、手指の運動から始めます。受傷後1週間が経過したら、肩関節の内転・内旋位でのアイソメトリック訓練を開始し、3週間が経過したら、肩関節の90度挙上範囲内で軽い運動を行います。脱臼後のリハビリテーションのポイントは、壁や床を背にし、手が身体の前に位置する範囲内での上肢のトレーニングを行うことです。受傷動作となった肩関節前方挙上外転・外旋を伴う運動は、リハビリの最終段階(約6週間)まで禁止します。


代表例:25歳男性、オリンピック代表選手

カヌーの国際大会の試合中に転没。オールに引っ張られて右肩関節前方脱臼を受傷した。数時間後に整復固定をして後日帰国したが、右手の第4・5指を中心とした知覚と運動の麻痺を伴った、腕神経叢〈そう〉麻痺を合併していた。
初回脱臼だったので、スリングによるデゾー固定を3週間行い、その後3週間は90度挙上範囲内での軽い運動や、プールでのトレーニングを行った。6週より壁を背にした状態でのオーバーヘッドスロー動作を含めた可動域訓練を開始、12週より競技復帰した。

アスレティックリハビリテーション

肩関節脱臼(肩関節不安定症)のアスレティックリハビリテーションの目的は、関節可動域や筋力を獲得したあとに、関節の安定を獲得することにあります。関節を安定させる機能として、静的安定性を担う靱帯と動的安定性を担う筋肉とがあります。アスレティックリハビリテーションにおいては、動的安定性を高めることが重要となるため、単に筋力のみの向上だけではなく、固有受容器のトレーニングによって神経-筋協調性の向上が必要となります。
今回は、不安定板やバランスボールを利用した神経-筋協調性を向上させるプログラムを紹介します。その際、段階的に負荷をかけていくことがポイントとなります。


固有受容器のトレーニング

固有受容器とは、関節包、靱帯、筋、腱、皮膚などに存在し、外からの刺激(触圧覚、痛覚、温覚など)や身体内部の状態(筋腱の長さ、関節の位置など)をキャッチするセンサーの役目を担っています。固有受容器はそれらの情報を中枢(脳)へ伝達し、中枢はその情報をもとに筋肉へ命令を出し、命令を受けた筋は反射的に運動します。
このような固有受容器→中枢神経→筋の反射機構(神経-筋協調性)の働きは、姿勢のコントロールや身体の保護(外傷の回避)、関節の安定などに深く関係しています。よって、靱帯や関節包を損傷して固有受容器に障害を起こすと、神経-筋協調性が低下し、スポーツ活動で生じる不意の外力に対して身体を守る瞬時の反応ができなくなります。
以上のことから、固有受容器のトレーニングはアスレティックリハビリテーションのみならず、傷害予防という意味で日常から行うようにすると効果的です。


トレーニングの注意点

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各エクササイズを3分間、3~5セット行います。トレーナーは外力を与える役目もありますが、選手(患者・以下省略)がバランスを崩して転倒しないように気をつける役目もあります。腕の位置はゼロポジションで、トレーニング時は肩甲骨が動かないように固定します(写真5)。トレーニングの段階は、選手の自覚(不安感など)や身体制動の達成度から判断します。

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痛みを感じたり、故障が発生したら、すぐに医師の診察を受けることをおすすめします。

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