脳震盪 Concussion

脳震盪

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

脳震盪

脳震盪はコンタクトスポーツに発生しやすいスポーツ障害である

はじめに

脳震盪とは、頭部に外力が加わった結果生じる、一過性の意識障害、記憶障害をいいます(意識障害は必ずしも意識消失とはならず、意識の変調もある)。この障害は可逆的(元に戻る)なものであって、脳の器質的な損傷(脳自体の損傷)は原則として伴いません。以下に、日本ラグビーフットボール協会の安全対策マニュアルに示されている脳震盪の定義を示しました。
「グラウンド上で明らかに頭部打撲が認められ、受傷時に応答(意識の状態)、あるいは身体活動に何らかの異常が認められたものは、すべて競技規則にいう脳震盪に該当する」

好発種目

アメリカンフットボール、ラグビー、ボクシング、アイスホッケー、モーターバイク、体操、乗馬、スキーなどのコンタクトスポーツや、転倒して頭部を強打しやすいスポーツに好発します。

症状

意識があっても頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、目のかすみが見られます。さらに症状が強くなると、記憶消失(名前、生年月日、住所、受傷時、その後のことなどを質問する)、ろれつが回らない話し方、呼吸・脈拍不整などが見られます。5分以内の意識障害で頭痛があれば、重症の場合もあるのでドクターに必ず診察してもらう必要があります。5分以上の意識障害は重症です。直ちに病院へ搬送してください。また、頭部外傷には頸椎捻挫、むち打ち症状(頸痛、肩こり)が合併しやすいことも心得ておきましょう。

脳震盪2

後方にそれたボールを追いかけて、見事キャッチした直後に広告用フェンスに後頭部より激突。一回転して転倒するも、そのまま競技は続行できた。

応急処置

脳震盪を起こしたら、まずは安静にして休ませ、意識レベル、呼吸、脈拍のチェックを行います。次に頭、頸部のアイシング、そして意識があっても手足の麻痺〈まひ〉がないかをチェックします。意識障害のあった選手に水を与えてはいけません。吐いてしまい、窒息の恐れがあります。

競技復帰に向けて

実際のスポーツ現場では実務上、明確な意識障害を伴う頭部打撲より、むしろ症状が軽くて早急に競技復帰の可否判断を求められる例が問題となり、意識消失の有無で大きく分かれます。意識消失(-)、記憶(-)の消失、頭痛、吐き気、めまいもなくジャンプやダッシュでも平衡感覚に異常がなければ競技は復帰可能です。ただし頭痛や顔面蒼白があったり、興奮状態のときは復帰させず監視下に置くべきです。

脳震盪の重傷度分類と競技復帰目安

1(軽症):意識消失(-)、外傷性健忘が30分以内の場合→1週間無症状なら競技復帰は許可する。
2(中等症):意識消失は5分以内、外傷性健忘が30分以内→1週間無症状なら競技復帰は許可。
3(重症):意識障害5分以上、外傷性健忘症が24時間続いた場合→競技復帰は最低1ヵ月を要する。

代表例

『24歳、男子バレーボール選手、国際大会中、19:30レシーブ時にボールを追いかけて、比較的柔らかいフェンスに激突。頭部打撲するも、意識障害もなくプレー続行できた。20:30試合終了。その後、宿舎に戻り夕食を取るも頭痛、気分不快は続き、22:30頃、突然滝のような嘔吐、意識状態は呼びかけにて開眼するも意識もうろう(表、JCSⅠ-2)となる。救急車にて病院に搬送し、経過観察入院。翌日は意識清明で朝食も摂取したが、頭痛、頸部痛あり。頭蓋骨レントゲンにて骨折なし。CT、MRIにて脳の明らかな損傷、出血、浮腫はなかった。脳神経外科専門医の許可を得て、3日後より競技復帰したが頭痛、頸部痛は強く残存し、身体が浮いた感じがして満足なプレーは結果的にできなかった(写真)』。頭部外傷後における競技復帰時期の判断が難しい1例でした。

トピックス

2004年トロント大学の研究で、スポーツ外傷による脳震盪後に抑うつや錯乱などの陰性気分障害が引き起こされることが報告されました。脳震盪により引き起こされた抑うつは7日以内に、錯乱、総合気分障害は3週間以内に消失しましたが、チームメイトとの情動にも差が生じました。

Japan Coma Scale(JCS)より意識障害の程度分類(3種類の程度に分けて表記する)

1) 刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現) (delirium、confusion、senselessness)

1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない
2.見当識障害がある
3.自分の名前、生年月日が言えない

2) 刺激すると覚醒する状態、刺激をやめると眠り込む(2桁で表現) (stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness)

10.普通の呼びかけで容易に開眼する合目的な運動(例えば右手を握れ、離せ)をするし、言葉も出るが間違いが多い
20.大きな声または身体を揺さぶることにより開眼する簡単な命令に応ずる。例えば離握手
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する

3) 刺激をしても覚醒しない状態 (3桁で表現) (deep coma、coma、semicoma)

100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる
300.痛み刺激に反応しない

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム ヘッドコーチ、日本体育大学トライアスロン部 ヘッドコーチ、日本トライアスロン連合 マルチスポーツ委員長

予防

【事故の予防】頭部の外傷は偶発事故がほとんどですが、できるだけ事故を未然に防ぐ必要があります。そのために以下の項目などを参考に、各競技の特性を考慮し、予防策を講じる必要があります。指導者が注意するだけでなく、選手自身が予防する意識が必要であるため、ミーティングなどでこまめに確認する機会をもつことも必要です。
 過去に私も、選手とともに自転車のトレーニングを行っているとき、転倒し頭部を強く打撲したことがあります。しかし、ヘルメットを着用していたため、そのヘルメットが割れて衝撃を吸収し、大事には至りませんでした。毎回ヘルメットなどの防具を利用する競技では、慣れによる不適切な装着なども考えられるため、日々のチェックが重要です。

チェック項目

1.不適切なヘルメットなどの使用。ヘルメットを使用するべき競技での未使用
競技中はヘルメットの着用が義務化されている競技でも、トレーニング中には使用していないことなどがある。競技中でもトレーニング中でも、危険性は同じであると考えられる。
2.集中力の欠如(体調不良や気の緩み)
集中力の欠如により、通常は対応することができる転倒や、相手のコンタクトに対応することができずに、頭部を打撲する可能性が高まる。
3.マウスピースの使用
マウスピースの使用は、脳震盪を予防することが知られている。使用が可能な競技ではできるだけ使用する。
4.過度の緊張
普段は対処可能な動きが、過度の緊張によりできない場合、危険性が高まる。
5.技術的な未熟
無理な挑戦は避け、段階的な技術の習得を心がける。マットや補助者などを用意して行う。
6.対戦相手との体力、技術の差が大きい
特にコンタクトスポーツでは、技術ではカバーすることができない力でタックルされた場合などに、頭部を打撲する可能性が高くなる。
7.頭を上げてコンタクト
ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクト時には頭を上げて、できるだけ頭から当たらないようにする。
8.頸部の筋力向上

現場評価・応急処置

現場での対処方法

コンタクトスポーツの代表といえるアメリカンフットボールでは頭部の外傷が多く発生するため、スポーツ現場での脳震盪の対処方法のガイドラインなどが充実しています(図)。これらを参考に、現場での事故発生時の対処方法を事前に考慮しておくことが重要です。分類によっては医療機関へ行かなくてもよいという表現がありますが、少しでも不安な場合は医療機関での検査を勧めます。

脳震盪の症状

1.
頭痛、吐き気、嘔吐
2.
目の焦点が合わない。まぶしい光に耐えられない。物が二重に見える
3.
耳鳴りがする。大きな音に耐えられない
4.
言語、運動反応に遅れる:質問に答えるのが遅い、指示に従うのが遅い
5.
意識不鮮明と集中力の低下:虚ろな眼差し、注意力低下
6.
不明瞭な発言:流暢にしゃべれない。理解できない言葉
7.
共同運動障害:よろよろ歩く、まっすぐ歩けない
8.
記憶障害:同じことを何度も聞く
9.
見当識障害:変な方向へ歩いて行く、時間、日付、場所がわからない
10.
手足に力が入らない

評価方法

▼精神状態のテスト
 見当識: 場所、時間、人、状況を言わせる
 集中力: 数字を逆から言わせるなど
 記 憶: 前の対戦相手などを言わせる
▼神経テスト
 瞳 孔: 大きさ、左右の対称性と対光反射
 協調性: 指―鼻試験(受傷者の鼻と検者の指を交互に指で触らせる)
▼運動テスト
 歩く、走る
 腕立て伏せや腹筋など

脳震盪

注意点:
①ドクターのいるときはその支持に従うこと。これはあくまで「ドクターのいないときの目安」と考えること。
②少しでも不安な点がある場合には、受診すること。


図 脳震盪の対処方法(1998年アメリカンフットボール医科学委員会作成)

参考文献
医歯薬出版株式会社 『スポーツ外傷学Ⅱ 頭頸部・体幹』

リコンディショニング

セカンドインパクトを避けるため、たとえ症状がなくても2~4週間は、トレーニングを休止させるという競技もあります。
さらに、競技復帰までは、他の怪我と同様に段階を追ってコンディションを整えて行くことも推奨されています。

下記のように復帰までに6段階を設けて、症状が完全に消失した後に徐々に運動レベルを上げていく方法のことを言います。

1.活動無し(体と認知機能の完全な休息)
2.軽い有酸素運動
例)ウォーキングや自転車エルゴメーターなど
3.スポーツに関連した運動
例)ランニングなど東部への衝撃や回転がないもの
4.接触プレーのない運動・訓練
5.メディカルチェックを受けた後に接触プレーを含む訓練
6.競技復帰

上記:段階的競技復帰のアルゴリズム( 永廣信治ら.神経外傷.2013より引用 )
症状が出現しなければ次の段階に進みますが、それぞれの段階の間に24時間の間隔をおき、最終的にプレーに戻る前にメディカルチェックを受けることが推奨されています。