【Vol.20】スポーツドクター 林 光俊 先生(後編)

予防の発想から生まれたスポーツ版サポーター

予防の発想から生まれたスポーツ版サポーター

整形外科医としてスポーツ外来を担当する傍ら、全日本男子バレーボールチームのスポーツドクターとして25年間にわたって活躍する林光俊さん。チームに帯同し始めた当時をこう振り返ります。

「私が担当するのは主にケガの処置だと思っていたのですが、バレーボールはアメフトやラグビーのような接触をともなわないため、急性のケガが起きにくいスポーツです。一方で、足首や膝などを酷使することによる慢性的なケガが非常に多いのがバレーボールの特徴です。常にじわじわとダメージが進行しているので、大事なのはケガをしたときよりも、実はその前の段階の予防なのです。」

「ドクターとしてはチームが招集されたときに、まずメディカルチェックを入念に行い、実際に選手たちの身体を触って、痛い箇所を本人から引き出しながら確認していきます。そこで通常どおりのプレーが可能か、治療が必要なのかを評価して、ケガの予防に最大限努めます。そのうえでケガをしてしまった選手の治療、リハビリ、コンディション調整などを進めていきます」

ケガの予防の発想から生まれたのが、ZAMSTのサポーターでした。

「バレーボールは慢性のケガが多いのですが、唯一といっていいほどの急性のケガといえるのが足首の捻挫でした。その程度の酷いものが靭帯の損傷で、選手にとって致命的なケガとなります。私が1992年のバルセロナ五輪の予選を戦うチームに帯同したとき、選手の一人が足首の靭帯損傷を負ってしまったんです。

その選手はチームの主軸でもあったセッターで、チームは二人目の離脱者を出すにはいかない状況に追い込まれました。そこで私は当時新しく発売されていた医療用の足首サポーターを取り寄せて、ケガを予防すべく選手たちに着用してもらいました。ところが、身長が190センチを超えるような選手たちには十分に適応できず、合いませんでした。すぐにサポーターが壊れてしまったんです。そういう経緯があって、日本シグマックスにスポーツ選手用にサポーターを改良してもらいました」

当時の全日本男子バレーボールチームは監督の指示によって、このスポーツ用に改良されたサポーターを全選手が着用。結果として、バルセロナ五輪の本大会が終了するまで、足首に関するケガ人はゼロになったのです。

「それだけの効果があっただけではなく、この全日本男子チームが足首に着用したサポーターは五輪を通じて世界中に知れわたり、その他各国の選手たちもサポーターを着用してケガの予防に努めるようになったのです。現在の全日本男子バレーボールチームでは選手たちの自主性に任せてサポーターを着用してもらうようにしています。特に一度ケガをしてしまった選手たちはサポーターのありがたみを感じてくれていて、ケガの再発防止の為にも着用する選手が多いですね。ケガが完治してからも予防の意味で着用してくれる選手も少なくありません」

チームドクターは選手のマイナスを取り除く仕事

チームドクターは選手のマイナスを取り除く仕事

林さんは全日本男子バレーボールチームのスポーツドクターとして第一線の選手たちに寄り添って25年。その醍醐味をどう感じているのでしょうか。

「チームの指導者の方々は選手たちの技術指導をしているので、いわば選手たちのプラス面を伸ばす仕事です。逆に、私たちメディカルスタッフは選手たちのマイナスを減らす役割を担っていますので、裏方の仕事になります。裏方の仕事ではありますが、プラスが増えてもマイナスが残っていればプラスマイナスゼロになってしまいます。やはりチームの一員として欠かせない仕事だと思いますし、私自身、昔からそういう協調関係が必要とされる団体スポーツの現場が大好きなんです。そのようにチームとして五輪出場などの栄光を勝ち獲ったときの喜びは、この仕事を続けるうえで大きな励みになるし、次への活力となります。」

「そして、たとえば、アキレス腱を切った選手の治療が終わって、再びコートに立っている姿が見られるのもスポーツドクターの醍醐味の一つです。病院勤務の医師の場合、復帰するまでの過程を現場で見続けることはできないからです。選手と同じスポーツの現場にいながら、患者の完治を自分の目で確かめられたときには嬉しくて涙が出てきますね」

最後に、林さんから現役部活生に向けたメッセージを頂きました。

「スポーツはプレーする人だけではなく、サポートする人もいなければ成り立ちません。また、一生涯スポーツ選手を続けられる人もいません。現役部活生のなかで、スポーツに関わる何かのお手伝いがしたいと思っている人は、ぜひ自分に何ができるかを色々と模索して見つけてもらえればと思います。スポーツの現場は、学校体育や地域のクラブ活動など様々な場所があり、メディカルサポーターという立場の人間が求められています。そして、スポーツの現場には思いもよらない感動的な場面がたくさん詰まっていますので、ぜひ夢を持って未来を切り拓いてほしいです。その夢の一つとしてスポーツドクターという職種があることもぜひ覚えておいてほしいですね」

企画・株式会社イースリー 文・杜乃伍真 写真・平間喬

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