鉄人に聞け!膝前十字靱帯断裂

症例解説Body & injury

Knee

膝前十字靱帯断裂Tear of Anterior Cruciate Ligament

  • 原因や治し方(医療編)
  • 予防や対処法(トレーナー編)
image_05_01

はじめに

前十字靱帯(ACL)断裂は、スポーツ障害のなかで最も重症度が高く、選手生命を左右することがあります。診断は決して容易ではなく、手術法を選択しても予後は必ずしも良好といえず、経過が長期化して治療に難渋する場合もあります。


機能解剖

ACLの走行は、膝関節内で大腿骨側外側部から脛骨側内側に2束が一体になっています。ACLの機能はスポーツ活動において、ジャンプ、着地、ダッシュ、ストップ、カット、ツイスト(ピボット)などの動作で発揮されます。膝関節の下腿前方移動と下腿の内旋動揺性(捻り)や、特にピボット時の膝関節を安定させるストッパー役です。
 膝関節内に存在するため、他部位からの側副血行が乏しく断裂すると、縫合しても血流が途絶したままで再接着しにくいのが特徴です。そのため、手術は靱帯再建術(移植術)が主流となっています。


受傷原因

膝にタックルするコンタクトスポーツに発生しやすく、時にノンコンタクトスポーツのジャンプ着地時や膝のピボット強制、床面でのスリップ時などに自損事故的に発症します。


好発種目

アメリカンフットボール、ラグビー(外・後方側からのタックル時など)、スキー、スノーボード(ボードが固定されて膝に回旋が強制される)、柔道、バスケットボール(ジャンプの着地時に人がぶつかってくる)、バレーボール(スリップによる自損)などが挙げられます。実際には膝上のタックルか、膝下か、足が固定されていたかどうかで、靱帯の損傷部位は変化します。


症状

急性期:外傷により突然発症する痛み、膝関節運動の障害、関節の腫張や血腫、膝崩れ現象(Giving way、足を着いたとき、膝にガクッと力が入らず崩れる)が出現します。2~3週しても痛みが継続する場合は、半月板損傷の合併を疑います。


検査

徒手検査では前方引出し現象、ラックマンテスト(膝約20度屈曲位)、ピボットシフトテスト(Nテスト)が陽性です。MRI検査は最も有用であり、ACLのみならずほかの靱帯、半月板、血腫、骨損傷なども把握できます。最近では機械を用いて膝の動揺性をチェックできます。
 レントゲンは骨折有無の確認に有用ですが、靱帯は写りません。また、関節鏡(内視鏡)検査は最も確実な診断が得られますが、皮膚切開、麻酔など手術手技に準じた侵襲があります。ACL単独での損傷例は少なく、内側側副靱帯損傷や半月板損傷を合併している場合が多いのが特徴です。
image_05_02


治療

原則的には、青年期のアスリートでハイレベルのスポーツ活動を維持する場合は、ACL再建手術が必要です。最近の手術は自分の腱(半腱様腱や骨付き膝蓋腱など)を移植する方法が主流で、保存療法にはギプスや装具で初期より固定する方法があります。
 保存療法はACL自体の機能回復は難しく、治療目的はADL(日常生活動作)回復、膝周辺の筋力維持、強化、競技パフォーマンスの維持であることをご理解ください。受傷初期は膝関節の固定、徹底したアイシングを行います。


メディカルリハビリテーション

トレーニング中のチェック項目は以下のとおりです。
 (1)日常生活で膝がガクッとする膝崩れ現象がないか、(2)ランニングが可能か、(3)階段昇降が可能か、(4)両足ジャンプが可能か、(5)ダッシュが可能か、(6)片足ジャンプが可能か、を判断してください。
 運動やスキー中に再び膝崩れが起こらないか、もし起こる場合は、手術治療を考慮して膝の再検査を受けてください。半月板損傷、関節軟骨損傷が合併している危険性があります。


リハビリテーションメニュー

(1)術後2~3週(保存的な場合は受傷後)から、装具装着下で全荷重歩行を開始します。SLR、水中歩行、バタ足、クロール、平泳ぎ、エアロバイクなど、体重負荷が少ないものから始めます。
(2)以上で膝痛や腫れがないことが確認できたら、ランニング、両足踏み切りジャンプ、カーフレイズ、マシンではレッグエクステンション、レッグカール、非荷重で下肢の協調運動(股関節屈曲、膝関節屈曲、足関節背屈→伸展、伸展、底屈)など、次第に膝関節への負担のかかる動作を練習します。
(3)最後に、ハーフスクワット、バランスボード(不安定板)、スライディング(スケーティング)、カーフレイズ、トランポリンなどを用いて膝周辺のバランス感覚を再教育します
。 (4)以上で問題がなければ、活動性の高いスポーツを徐々に行ってください。ただし、各々に月単位でのトレーニング期間を要します。


予後

スポーツ競技復帰はさまざまですが、早くて6ヵ月、一般的には8ヵ月以上を要します。

はじめに

前十字靱帯損傷は、内側側副靱帯損傷や半月板損傷と並んで、膝関節の代表的なスポーツ外傷です。受傷者の年齢層も高校生から中高年にわたり、また活動レベルも余暇スポーツレベルからプロレベルまで多岐にわたります。
 前十字靱帯損傷の治療法には、保存療法と手術療法(靱帯再建術)とがあります。近年では、関節鏡による靱帯再建術を実施する場合がほとんどです。


アスレティックリハビリテーション

スポーツ活動中に発生することの多い特徴から、スポーツ復帰には、日常生活復帰を目的としたメディカルリハビリテーションから、スポーツ活動に必要な運動能力を獲得するアスレティックリハビリテーションまでを行う必要があります。  今回は、アスレティックリハビリテーション初期の基本動作のポイントについて説明します。
 図1にプログラムの一例を挙げます。アスレティックリハビリテーションは、患部の回復に応じて、術後2ヵ月以降から開始します。プログラムの流れは、どの競技においても共通している動作(基本動作)から競技特性に応じた動作へ、段階的に進めていきます。

image_04_04

基本動作は、ジョギング、ランニング、ダッシュ、方向転換、ジャンプなどを回復レベルに合わせて実施します。しかし、ただ単に動きを慣らしていくだけでは、アスレティックリハビリテーションとしては不十分です。
 基本動作を行うなかで、再受傷の予防や前十字靱帯に負担のない動作を覚える(動きをつくる)ことがポイントとなります。
 以下にそのポイントを挙げます。

◇つま先と膝とが同じ向きになるようにする  動作中につま先が外側で膝が内側を向いてしまう動作は、膝関節外反を促し、前十字靱帯に負担がかかるので行わないようにします。よって、動作中は常につま先と膝とが同じ向きになるようにします。特に、サイドステップからの切り返しや方向転換をするときは注意しましょう。
 また、その対策としては、ツイスティングやステップドリルが有効です(図2)。これらは、前十字靱帯損傷に限らず、膝関節のスポーツ障害を予防する動きづくりとして重要です。

image_04_05

◇ハムストリングスを収縮させる   ハムストリングスはその筋の走行から、脛骨が前方に引き出され前十字靱帯へ過度のストレスがかかるのを防いでいます。よって、ハムストリングスの収縮が増大するフォームを身につけることが重要になります。
 ハムストリングスは膝関節と股関節を屈曲させた状態で収縮が増大するので、動作中は常にフォームを意識します(写真1)。このフォームは、足関節の背屈制限があると困難になるので、背屈の可動域を確保しておくことが必要です。いわゆる「低い姿勢(かまえ)」ということになります(写真2)。
image_04_06 反対に、動作中に、重心が後ろにかかってしまう動作は、大腿四頭筋の収縮を促し、前十字靱帯に負担がかかるので行わないようにしましょう。特に、膝関節伸展位に近い状態で大腿四頭筋が収縮すると、脛骨が前方に引き出される傾向が強くなるので特に注意が必要です。  後ろ向きのランニングを例にとると、写真3は股関節が伸展して身体が浮いた、悪いフォームになっています。一方、写真4は股関節と膝関節が屈曲して、低い姿勢が保たれている正しいフォームといえます。 image_04_07 このほかにも、写真5のような“バン!”と足を着くようなストップ動作も、前に振り出した膝関節に負担がかかるので行ってはいけません。ストップ動作は、写真6のように低い姿勢を保ち、小刻みにステップを踏んで止まるようにします。
image_04_08


参考・引用

小柳磨毅ほか:一般的なアスレティックリハビリテーション,『アスレティックリハビリテーション』,福林徹・米田稔(編),南江堂,1998.

痛みを感じたり、故障が発生したら、すぐに医師の診察を受けることをおすすめします。

ヒザの痛み 対策ハンドブック

ヒザのつくりから、ケガ予防のストレッチ法などをわかりやすく紹介!
「ヒザの痛み 対策ハンドブック」

PDFダウンロード

「ヒザ」のサポーターをご紹介

商品リストはこちらから