救急蘇生法 resuscitation

救急蘇生法

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

救急蘇生法

発生状況

スポーツ現場において救急蘇生が必要な事故の発生原因は、アメリカンフットボール、ラグビー、ボクシング、モーターバイク、スキー、自転車ロードレースなどの競技でみられる頭(頸)部外傷(脳挫傷、脳出血、頭蓋骨骨折、頸椎損傷)が多く、また、水泳(海、川を含め)では溺水〈できすい〉が、中高年ではゴルフやジョギング中の心臓発作(心筋梗塞、狭心症)などがみられます。夏季には熱中症のなかで最重症である熱射病で、年間数名の死亡事故が発生しています。  長身選手の多いバレーボール界では、1986年に日本での試合中に心臓発作を惹起して急死したフロー・ハイマン選手の例があります。このシーンは全米にも放映され、転倒している選手に救急蘇生を行わない日本の(試合会場での)医療体制が批判されました。この事件をきっかけにバレーボール競技では、試合会場にドクターを待機させるシステムやチームドクター制度が整備されました。

救急蘇生のABCとは

救急救命処置では、A(Airway)気道確保、B(Breathing)人工呼吸、C(Circulation)心臓マッサージの頭文字をとったABCが基本となります。救急の場面では素早い判断と手際のよい処置が必要です。ドクター以外の人でも行えますから、スポーツ現場のスタッフは、ぜひ救急救命のトレーニングを受けておくべきです。  自発呼吸がなかったり、上気道部に舌や異物による閉塞がみられたりする場合は、まず気道(鼻や口からの空気の通り道)の確保を行います。うつぶせの場合は呼吸が確認できないので、頭頸部を固定しつつ身体を回転させて仰向けにします。気道確保において頸椎の損傷が疑われる場合は、不用意に頭部を後屈することは禁忌です。

救急搬送のポイント

頭頸部外傷、意識障害、継続する頭痛、めまい、蒼白、呼吸困難、腹痛、嘔吐、強い腰背痛、胸部痛、骨折、脱臼、筋腱損傷などの疑いや、四肢の腫脹〈しゅちょう〉、変形、知覚障害などの症状がある場合は、迷わず救急車などを利用して医療機関を受診してください。また、診断や治療に不明な点がある場合は、必ず医療機関を受診しましょう。

スポーツ現場での事故の事例

【アイアンマントライアスロンレースでのスイム中の死亡事故例】

41歳男性。同レースには過去4回の出場経験があるベテランで、レース前の健康チェックでも異常はありませんでした。事故は初めのスイムレース(海で3km)の後半に起こりました。ゴール手前の300m付近でコースを外れ、いったん逆に泳ぎ始めて再びUターンした直後に動きが止まったので、ダイバーが引き上げて医療救護テントに運びました。しかし、心肺停止状態であったため、ドクターによる気管内挿管による人工呼吸と心臓マッサージを行いながら救急車で病院へ搬送しましたが、死亡が確認されました。

【熱中症のなかで最重症である熱射病例】

26歳男性。アイアンマントライアスロンレースの最終種目であるマラソンレースで、ゴール手前の300m地点で走行不可となって、選手が座り込んだ状態となりました。その後、自力で立ち上がりましたが、50m歩いたところで意識を失って転倒。全身ケイレン(+)、呼吸困難(+)がみられたために、ただちに救護室に運び、リンゲル液点滴、鎮静剤、ブドウ糖などの静脈注射を開始し、氷による全身クーリングとアンビューバッグによる酸素吸入補助呼吸を行いつつ、救急車で病院に搬送しました。
 病院搬入時に意識障害(+)があり、血圧は145/96と高く、脈拍は121拍/分と頻脈で、呼吸は54回/分、体温は42.8℃と異常に高くなっていたため、気管内挿管による人工呼吸を開始。初期治療が功を奏し、翌日には意識清明となりました。

【原因判断の難しい実例1】

28歳男性。アメリカンフットボールの試合中に、正面からタックルされた選手がそのまま集団でもみ合うように下敷きとなり、うずくまって動かなくなってしまいました。頭頸部外傷もしくは腹部外傷を疑い、ただちにグラウンド脇に運んで全身のチェックを行ったところ、明らかな意識障害はみられませんし、下肢の神経麻痺〈まひ〉もありません。しかし、右側上肢のみを動かすことができずにいたので触診したところ、肘の変形を確認しました。肘関節脱臼による激しい疼痛〈とうつう〉のため、発声もできなくなっていたのでただちに徒手整復術を行い、脱臼整復後は疼痛も軽減して会話も可能となりました。これは、本人から明瞭な情報が得られない例です。

【原因判断の難しい実例2】

38歳男性。夏季に2時間、室内でテニスをプレーして、終了後に意識がもうろうとし始めて全身のケイレンが発生しました。明らかな外傷がないことを確認したあと、低血糖発作と判断してガムシロップジュースを飲ませ救急車を要請。5分後に意識清明となりました。のちに糖尿病が基礎疾患にある低血糖症であり、当日の血糖値が40mg/dlだったと報告を受けました。

【心筋梗塞例】

55歳男性。ゴルフのパッティングプレー中に突然、前胸部に痛みが発生して七転八倒し始め、心肺停止に陥りました。救急隊の到着を待つ間、同伴者がマウスツーマウスでの人工呼吸、及び心臓マッサージを施行して一命を取りとめました。

トレーナーによる対処法解説

Yoshizumi Iwasaki

岩崎由純先生

NATA公認アスレティック・トレーナー、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、JCCA(日本コア・コンディショニング協会)会長

救急蘇生法の重要性

心停止から1分ごとに、救命率は7~10%下がります。救急車が現場に到着するまでに、出来ることが救急蘇生法です。いざというときに「心配蘇生法ができるかどうか」「できるスタッフがいるかどうか」「AEDの設置があるかどうか」が重要になってきます。迅速な救急通報と共に、迅速な救急蘇生(心肺蘇生や気道異物除去等)は、救急隊や医療機関での処置と比べて、心停止患者の救命、社会復帰に、より大きく貢献するといわれています。AEDの有無によって大きくわかれてしまうケースもあるので、どこに設置されているかなどは競技の前に把握することも重要です。

現場での救急蘇生法の手順

ここでは現場で誰かが倒れてしまった場合の説明をしていきます。現場で何よりも大事なのは、チェック(Check)、コール(Call)、ケア(Care)の3つの「C」です。チェックでは、まず現場(現状)をチェックしてから患者をチェックします。現場をチェックするのは、患者及び施術者の安全を確保するために重要です。コールは、緊急連絡を指します。トレーナーや指導者は、緊急時に即座に緊急連絡できるように、電話や電話番号を常に準備しておきます。ケアは、いうまでもなく救命救急のための処置を指しています。AEDの使い方はもちろん、心臓マッサージなど救急蘇生法は更新されますので、最新の情報は下記のリンク先を参照にしてください。いざというときに使えることが大事ですので技術、知識を身につける、資格をとっておくことが大切です。

◆参考リンク

日本医師会ホームページ(救急蘇生法):http://www.med.or.jp/99/


東京消防庁(心肺蘇生の手順):http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/life01-2.html


公益財団法人東京防災救急協会:http://www.tokyo-bousai.or.jp/category/lecture_point/


日本赤十字社(救急法などの講習):http://www.jrc.or.jp/activity/study/

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