肉離れ Muscle strain

肉離れ

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

肉ばなれ

疾患の概要

肉ばなれとは、ダッシュなどの動作で筋肉の収縮時に急激な過伸張ストレスが加わり、そのため筋線維の損傷(いわゆる筋肉がはがれる)が起こる傷害の一般的総称です。医学的には筋断裂、筋膜断裂、筋損傷といい、主にスポーツ活動中に発症しやすく、スポーツ傷害で頻度が高い症状です。

原因・発症のメカニズム

主にスポーツ中の特にダッシュなどで筋肉が収縮している時に、正反対の伸ばされる力が加わることによって起こる筋肉の断裂です。例えばふくらはぎの筋肉が収縮しようとしている時に、地面を蹴って足関節が背屈(ふくらはぎは伸ばされる)方向に力が働いた場合、筋肉がこのストレスに耐えられずに離解断裂する。その結果離解部の空間が生じ、そこに出血が貯まる。

診断

症状

断裂部の圧痛と運動時の痛みが主な症状で、断裂部では陥没を触知できることがあります。受傷して3日ほど経過すると、皮膚表面に内出血が現れることがあります。受傷後1週間くらいは歩行にも支障をきたします。歩けないぐらいの痛みがある場合は重症です。

肉ばなれ1

写真1 矢印:右大腿ハムストリングスの肉ばなれ。受傷して3日ほど経過すると、皮膚表面に内出血が現れることがある

好発部位

腓腹筋(ふくらはぎ)の内側の内側頭、大腿ハムストリングス中央、大腿四頭筋、股関節内転筋、上腕二頭筋、まれに腹直筋でも発生します。

好発年齢

腓腹筋での発生は競技者レベルや30歳以上のスポーツ愛好者で多くみられます。一方、ハムストリングスでの発生は青年競技者に多く、中・高校生の発生は少ないようです。

好発スポーツ

陸上短距離(ハムストリングス)、陸上中・長距離(腓腹筋、ハムストリングス)、サッカー(腓腹筋、大腿四頭筋)、テニス(腓腹筋、tennis legという言葉がある。サーブ、レシーブ時に好発)、バドミントン(腓腹筋)、アメリカンフットボール(ハムストリングス)、野球(腓腹筋、ハムストリングス)、バレーボールとバスケットボール(腓腹筋、ハムストリングス、大腿四頭筋)。過度のストレッチングや筋力測定時でも発生します。

有用な検査

MRIは受傷初期から、血腫範囲や受傷部位の確認が可能です。超音波でも血腫の確認はできますが、数日経過したほうがわかりやすくなります。

肉ばなれ2

写真2 矢印は右大腿ハムストリングス肉ばなれのMRI

治療・リハビリ

治療

原則的に手術の必要はほとんどなく、主に保存治療を行います。初期治療として受傷後48時間はRICE療法が有効です。また、市販されている持続冷却器も有用です。疼痛が軽減したら日常生活動作を許可します。硬結(しこり)部周囲の違和感に対しては、電気刺激や鍼治療も有効です。腓腹筋を受傷した場合には、テーピングを使って足関節を軽度底屈位で固定し、肉ばなれが進行しないようにします。

リハビリテーション

受傷後1週間以内に局所の疼痛が軽減して歩行が可能になれば、患部に負担がかからないようにハムストリングスや足関節の背屈のストレッチングを軽く行います。 受傷後3週間くらいで圧痛がなくなれば、徐々に軽いランニングから始めていきます。受傷初期は局所に硬結が残りますが、この硬結があるうちにハードな練習を行うと再発してしまうので、ランニング中にハーフスピードダッシュを混ぜるとよいでしょう。100%の力を発揮してのジャンプやダッシュは約6週間休止します。 運動時の痛みが治まったら、再発予防を目的とした肉体改造が必要です。常に断裂部やその周辺の関節の可動域、筋肉の柔軟性獲得と維持のためのストレッチングや、軽い筋力トレーニングを行ってください。ウェイトの負荷は、好調時の半分の量で十分です。負荷をかけすぎないように気をつけてください。 受傷後6週間経過して、足関節の背屈ストレッチングや抵抗運動、ハーフスピードダッシュ、軽い両足ジャンプなどを行っても、疼痛や違和感がまったくないようであれば、スポーツ動作を徐々に再開していきます。 十分なウォームアップで身体が温まると、患部の違和感がなくなります。ストレッチングによって筋肉や関節の柔軟性が増すと、肉ばなれを起こした局所周辺の負担も軽くなりますし、筋肉がストレッチされることによって血行もよくなります。練習後は罹患部位に熱感が発生しますので、局所のアイシング(約15分)は徹底してください。再びピキッときたら、ただちにプレーを中止しましょう。急がば回れ! です。

肉ばなれストレッチ1

ハムストリングスのストレッチング

肉ばなれストレッチ2

足関節の背屈のストレッチング

トレーナーによる対処法解説

Yasuhiro Nakajima

中島靖弘先生

湘南ベルマーレスポーツクラブトライアスロンチーム GM
株式会社アスロニア ディレクター兼ヘッドコーチ
⽇本トライアスロン連合 マルチスポーツ対策チームリーダー

肉ばなれ(トレーナー編)

現場評価・応急処置

状況の確認(HOPS)

怪我の状況を性格に把握し、その後の対応を迅速に行うために状況を確認します。
HOPSのページを確認して、状況を確認し、メモを取ることで、医療スタッフ、コーチと情報を共有し、適切な対応が可能となります。例えば、肉ばなれの発生原因に疲労やストレッチング不足などが挙げられた場合、受傷した瞬間だけでなく、過去にさかのぼって考えると原因がつかめて再発予防の対策をコーチと相談する際に役立つと思われます。筋肉につったような痛みがあったり、「パン」と音がなるような感覚を訴え、腫れや皮下出血などがみられたら肉ばなれを疑い、速やかに応急処置を行い、スポーツドクターによる診察を受診することをお勧めします。疲労の蓄積による発生もありますので、筋肉痛や痙攣による痛みと間違えないように注意が必要です。

アスレチックトレーナーがいる場合には、問診による確認のほか、触診による損傷部位の確認、自分自身で関節を動かした時の痛みや抵抗をかけて関節を動かした場合の痛みの確認、ストレッチをした時の痛みなどを、健側(怪我をしていない方の脚や腕など)と比較をして確認をします。

応急処置

RICE処置を行います。できれば24~48時間の間、休憩を入れながらアイシングを続けることが理想です。その際、凍傷には十分注意してください(アイシングの詳細ページをご覧ください。)

アイシング時だけでなくその合間にも、伸縮性の包帯を使って軽く圧迫することで、余分な腫れを防ぐことができ、早期回復に役立ちます。

リコンディショニング

関節可動域、筋の柔軟性、筋力が、健側と同等の状態にまで回復することを目的に行いますが、痛みが出ないようにコントロールすることが大切です。回復までの期間は、受傷の重症レベルによっても違いますので、スポーツドクターやトレーナーと相談しながら、十分な安静期間が取れ、痛みがなくなってから行います。自発痛がなくなってからストレッチングを行います。ホットパックなどで十分に温め、受傷部位に遠い部位から始め、徐々に患部に近づくような順番で全身をストレッチングします。痛みが出ない範囲で慎重に行い、「痛みが出るかな?」と試すような事はしないようにしてください。ランニングは、いきなり行うのではなく、水中歩行や自転車など体重による負荷を軽減させた環境でトレーニングを始めて行きます。これも自発痛がなくなり、力を入れても痛みが出ない程度で行い、徐々に動きがあり、体重による負荷のあるトレーニングに移行していきます。
筋力を回復するトレーニングも、何も負荷をかけない状態で動きのないものや動きの少ないもの(写真1)から始め、チューブなど軽負荷のもの、自分の体重を利用したもの、ウェイトトレーニングへと移行させます。
 このように、復帰のためのトレーニングでは急激な改善を望まずに、痛みと相談しながらスポーツドクターやトレーナーの指示に従って行いましょう。肉ばなれは十分なリハビリテーションを行わずに早期復帰した結果、不調が長引くといったケースが多くみられます。十分なリハビリテーションの時間をとってください。

写真1 ハムストリングのストレッチ

再発防止と予防

肉離れの原因には、下記の項目が挙げられます。

1.筋の疲労
2.筋力の低下と拮抗筋(例:大腿四頭筋とハムストリング)の筋力バランス
3.柔軟性の低下
4.動きの効率(フォーム)が悪い
5.ウォーミングアップ不足

これらの項目を改善することで、再発防止、予防策となります。
まずは十分なウォームアップ、クールダウン、ストレッチングを行うことを習慣化することが大切です。ストレッチングは、決められた種目を一定方向にだけ行うのではなく、日々の柔軟性の変化を考慮しながら、硬いところや筋が張りやすい部位を入念に行い、トレーニング後の疲労回復が効率よく行われ、筋肉の柔軟性が確保できるようにします。筋肉は直線的についているわけではなく、さまざまな方向に向かってついています。1つの筋を伸ばすにも、内旋や外旋などの捻り、内転や外転などの開き具合の動きを混ぜ合わせたストレッチングを行ってください。
筋力の拮抗筋(左右、前面と後面)バランスは、特別な測定機器がないと判断することができないので、測定施設を積極的に利用することをお勧めします。筋力をバランスよく、効率よく発揮させるためにバランスボールやTRX(天井から釣りしたロープを利用したトレーニング)など不安定な状況で行うトレーニングを積極的に行うことでパフォーマンスを向上させるだけでなく肉離れの予防にもなります。例えば、ハムストリングスの肉ばなれ予防の場合には、あお向けに寝た状態で足を椅子の上に乗せ、お尻を上げるようなトレーニングを行うと、ランニング時の蹴り出し動作のようになります。これを一方向だけでなく、ストレッチングと同じように内旋や外旋などを加えることにより、筋の一部への負担を減らし、動きの効率を上げることができます。椅子などの安定した台の上で正確な動きができるようにしてから、さらにバランスボールなどを利用して、不安定な環境で行うするとその効果は高まります。身体全体をバランスよく、効率よく動かすことにより、1つの部位への負担が減ると考えられます。予防策を実施することで肉ばなれの発生率は減少します。今回紹介したストレッチングやトレーニングだけでなく、栄養や睡眠も含めた日々の身体のケアをしっかり行ってください。

参考文献:南江堂「ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の診療」(林光俊、岩崎由純著
参考文献:文光堂「スポーツ外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド」臨床スポーツ医学編集委員会

肉ばなれ1
肉ばなれ2

写真 ストレッチングを行うときは、直線的に伸ばすだけではなく、内旋や外旋、内転や外転を混ぜ合わせて行うとよい。

肉ばなれ3

ハムストリングスの肉ばなれの予防のための筋力トレーニングでは、あお向けに寝た状態で片足を椅子(バランスボール)などの上に乗せる。臀部を浮かせ、もう片方の足を上げたり、外旋・内旋させたりする

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