アキレス腱断裂 Achilles tendon rupture

アキレス腱断裂

ドクターによる症状解説

Mitsutoshi Hayashi

林 光俊先生

医学博士、日本リハビリテーション医学会専門医、日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、JOC強化スタッフ、日本体育協会公認スポーツドクター

アキレス腱断裂

疾患の概要

レクリエーションスポーツが活発になり、それに伴ってママさんバレーボールやテニスを筆頭にアキレス腱断裂の発生も増加してきました。受傷時年齢も、かつての20代から、40-50代をピークとした中高年層へと幅広くなりました。前十字靱帯断裂と並んでスポーツ外傷のなかでは最も重症度が高く、競技復帰には約半年から1年を要します。

原因・発症のメカニズム

アキレス腱は、下腿三頭筋(ふくらはぎ)の筋肉が足首で束になり、アキレス腱という紐〈ひも〉になり踵骨〈しょうこつ〉(かかと)に付着しています。この足首に近い紐の部分が断裂した場合をアキレス腱断裂といいます。 運動機能は踵を上げる(カーフレイズ)、つまり、つま先立ちやダッシュ、ジャンプ時の蹴る(足関節底屈の力)動作を司〈つかさど〉っているため、スポーツにおいて最も重要な役割を果たしています。30歳くらいからアキレス腱の変性変化(老化)が進行して、徐々に腱の柔軟性が低下します。さらに体重増加などで腱への負担が増加したり、無理な体勢を強いられたり、筋力の低下などが受傷の要因になっています。 受傷原因はスポーツが約9割を占め、残りは60歳以上に多い転倒、転落など不慮の事故によります。スポーツ種目別では1位テニス(主にレシーブ時)、2位バドミントン(レシーブ)に続いて、3番目にバレーボールで全体の50%を占めます。最近はサッカー(フットサル)が増えてきました。 バレーボールではジャンプ動作による受傷はほとんどなく、主にレシーブで前のボールを取りに行くときの蹴り足側や、移動してのトス動作時に多く発生します。

診断

診断は比較的容易で、(1)断裂したアキレス腱部にはっきりした陥凹を触れ(写真1)、(2)つま先立ちが不可能、(3)Thompson testが陽性(ふくらはぎを握っても足首が動かない)、などです。 多くの人が「自分のアキレス腱部に人がぶつかってきた」とか、「ボールが当たった」などの衝撃を感じたり、「ブチッ」と音がしたなどの本人に自覚症状があります。注意点として(1)歩行は可能な場合があり、(2)痛みのない場合があります。最近は超音波検査やMRIにて断裂部を容易に確認できるようになりました(写真2)。

断裂部の陥凹(左)

写真1 陥凹に触れる

MRIによるアキレス腱断裂状態

写真2 MRIによるアキレス腱断裂状態(矢印)

治療・リハビリ

治療は手術療法と保存療法(非手術)に大別されます。基本的には治療期間に大差はなく、筆者は保存療法によるオリンピック代表選手の完全復帰例を経験しています。 手術療法:断裂したアキレス腱を直視下で確認しつつ(写真3)、縫合糸にて断裂部を縫合し、術後はギプスで固定を行います。ギプスの固定期間は手術法で4~6週(シーネ含む)、保存療法で6週を要します。ギプス固定後は約1ヶ月間装具を用いて歩行します。 保存療法:受傷時は断裂した腱の接近を目的として、足関節最大底屈位(50度以上)にして膝下からのギプス固定を行います(写真4)。荷重はフロアタッチ程度で、ギプス固定下でも下肢の屈伸運動は許可します。2週間経過した受傷後3週目で足関節約30度底屈位の固定に変更し、荷重は軽度の部分荷重とします。  受傷後5週目から足関節軽度底屈位で、ヒール付きギプス固定として全荷重歩行を行います。受傷7週より約1ヵ月間は短下肢装具を使用し、足関節の自動運動訓練を開始します。受傷11週目より装具をはずします。
両治療法共に装具が取れたら両足つま先立ち練習や軽いジョギングを行います。ダッシュなど受傷原因となった動作は最も注意すべきであり、リハビリテーションの最終段階で行ないます。
再断裂はギプスや装具除去後に起きやすいので、この時期は転倒に要注意です。

アキレス腱断裂部

写真3 手術時のアキレス腱断裂部(矢印)

膝下からのギプス固定

写真4 保存療法による受傷時の膝下からのギプス固定

つま先立ち

写真5 装具が取れたら、両足つま先立ち練習などを行う

トレーナーによる対処法解説

Yoshizumi Iwasaki

岩崎由純先生

NATA公認アスレティック・トレーナー、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、JCCA(日本コア・コンディショニング協会)会長

アキレス腱断裂(トレーナー編)

予防

アキレス腱の断裂は、スポーツの現場では大きな事故です。ただ、慌てて救急車で運び救急病院で手術を受けてしまうよりも、専門のスポーツドクターに相談し、スポーツの種目やレベル、年齢などに応じた適切な処置を受けるようにしたいものです。
しなやかなアキレス腱は断裂しにくいという発想で、予防のためのコンディショニングには、ストレッチングとバランス(コーディネーション)のメニューが処方されます。ストレッチングは、足関節の背屈が基本ですが、膝の状態によっていくつかに分類されます。またステップ・ストレッチ(写真1・2参照)のように器具を用いたストレッチ方法も効果的です。ステップ・ストレッチは、アキレス腱のストレッチと同時に、足底を伸ばしているのが特徴で、正しく利用すると不思議なほど踵やアキレス腱の痛みが緩和することもあります。

現場評価・応急処置

アキレス腱の断裂は、突然発生するので本人も周りもびっくりしてしまいます。多くのテキストで紹介されているように、後ろから誰かに蹴られた(叩かれた)ような衝撃を感じるのが特徴ですが、捻挫のような大きな痛みがないのも「意外」な特徴です。本人は何が起こったのかわからず、立ち上がろうとしますが、アキレス腱が完全に断裂した場合は、支え切れず倒れてしまいます。  どのようなレベルの選手でも、静止状態から急に動いたときにアキレス腱損傷の危険性があります。一流の現役選手でも受傷するのは、それまでの疲労の蓄積や体調など別の要因が複雑に絡み合っているケースが多いようです。ママさんやパパさんのスポーツでのアキレス腱損傷が多いのは、筋肉や腱の衰えを自覚しないまま、無理して昔のイメージ通りの動きをしようとするからでしょうか。

リコンディショニング

受傷直後のリハビリテーションは、保存・手術療法かによって開始時期が異なりますので、ドクターやPTの指示に従ってください。スポーツの現場に出てからも、基本的なメニューは継続しながら、実際の動きに近いトレーニングを処方します。病院では、PNFやアイソキネティックス(等速性運動)などで周囲の筋肉の筋力強化が行われます。

A.固定期間中

アキレス腱断裂の処置は、手術療法にしても保存療法にしてもギプスによる固定期間があります。本来なら、この期間は、病院でPTにリハビリテーションの処方を受ける期間ですが、現場にいる時間もあります。この期間は、患側に関してはギプスをつけたままでのSLRを中心に、健側のコンディショニング(ウェイト・トレーニングや補強運動)を行ってください。ドクターからの処方があれば、この期間中にも、EMSを用いて電気的に筋肉を等尺性収縮させることもできます。また、足指の底背屈もこの期間からスタートして、患部に隣接する筋肉群の活動性を維持します。

B.簡易ギプス(ウォーカー)装着期間中

ギプスが取れてからしばらくの間は、アンクルブレースなどのスポーツ用装具よりも固定力が強く取り外しが可能な、簡易ギプスやウォーカーをつけて日常生活をするようにします。ギプスが取れてからの最初の2~3週間が最も再断裂の危険性が高い期間といわれ、この時期は慎重にリコンディショニングを行う必要があります。基本的には、通院してPTに直接、指導を受けることをお勧めします。内容的には、足関節周辺の関節可動域と筋力を回復するため、徒手抵抗による底背屈やPNF、アイソキネティックスなどのマシンを用いたエクササイズが処方されます。

C.歩行が許されてから

ドクターの指示の下に慎重にリハビリテーションが進められるべきなのですが、机などに手をついてのカーフレイズが可能になると在宅メニューが処方されます。アスリートの場合は、水中での歩行訓練を行います。ゆっくりとした速度での歩行、つま先歩き、踵歩きなどを行います。プールサイドで滑らないよう、要注意です。
 壁に手をついてのカーフレイズができるようになったら、陸上での歩行訓練を行います。一般的な歩行に加え、小股のつま先歩き、踵歩きなどを行い、徐々に大またにしていきます。さらに手離しのカーフレイズができるようになったら、シャッキングを行います。シャッキングとは、常にどちらかの足が地面についているようなゆっくりとしたジョギングのことです。

D.片足カーフレイズができるようになってから

床から離れない程度のアンクルバウンスを行います。アンクルバウンスとは、足首を使ってその場ジャンプすることですが、初期の段階では、床から離れない程度でリズムよく行います。慣れてきたら、徐々に高く上がるようにします。
 この時期から、積極的にジョギングも行うようにします。腕振りや姿勢などを意識しながら、可能な限り左右のテンポが同じになるようにバランスを大事にしてください。回復の程度に合わせて、スピードや距離を調整するようにしてください。

E.片足でのその場ホップができるようになってから

スライドボード、バランスボード、ボスシステムなど、コーディネーションを回復するためのエクササイズや補強を取り入れます。ジョギングに加えて、サイドステップやスキップ、クロスステップ、バッククロスなどの走行訓練をします。さらに回復が進めば、切り返しや方向転換もメニューに加えますが、最も危険なのはバック走から急激な方向転換をしてダッシュすることです。注意してください。チャイナステップなどもこの時期に行うとよいでしょう。

競技復帰

完全な競技復帰をする前に、競技種目の基本動作で再開テストをすることも忘れないでください。アキレス腱断裂の場合は再発率が高いケガですので慎重に、再発予防のためのコンディショニングとアフターケアを続けることが絶対条件です。

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