【Vol.18】プロスキーヤー 皆川賢太郎さん(後編)

人生の主人公は自分と言い聞かせ、自分を評価する

人生の主人公は自分と言い聞かせ、自分を評価する

世界で活躍するスキー選手を目指し、厳しいほど己を律する少年時代を過ごした皆川さん。他人の人生と比べてうらやんでいると、自分の存在が下と感じてしまうことがありますが、皆川さんは頑張っている自分を評価することを心がけてきました。

「自分でもストイック過ぎると思うほど、学生時代から遊ばずにスキー中心の生活を送ってきました。きっと同級生は有意義な学生生活を送っていたと思います。でも、他人と自分を比べてしまうと、自己評価を下げてしまうことがあります。だから、昔から自分が人生の『主人公』なのだと言い聞かせてきました。人生の中心となるのは自分だと自覚すれば、生き方を自分で選んで決めることに戸惑いなど感じません」

自身が人生の「主人公」と考えれば、どんな道を歩もうと後悔はしないはず。生き方を自分で決めることは、つまり自分の人生に責任をもつことなのかもしれません。

「そのときの自分が素晴らしいと思えなくても、長いスパン(期間)で考えると、努力が実る機会がきっと訪れます。自分を常に評価して、意識を高めていかないと辛いことなど続けていけません。この考え方は、昔からずっと心の中にあります。選手時代、ケガをして手術することになり、術後は歩くことさえままならない状態になったことがありました。リハビリに励んでいるとき、他の選手が活躍する姿を目にすることがあります。でも、その人と自分を比べたってしょうがない。今すべき、リハビリに集中し、その姿勢を自分自身で評価することのほうが大切だと思います」

プロだからこそケガをしない準備をしたい

プロだからこそケガをしない準備をしたい

皆川さんは高校時代から全日本スキー選手権大会アルペン競技にデビューし、1998年に長野オリンピックの日本代表に選ばれます。ワールドカップでも活躍し、第1シード入りも果たしました。しかし、左ヒザの前十字靭帯断裂など大きなケガにも見舞われました。

「スポーツ選手はみんなケガに悩まされていますが、スキーの場合はヒザが特に多い。自分もヒザのケガに苦しめられ、手術をするような大きなケガも何度か体験しました。ケガはマイナス点ばかりです。パフォーマンスが落ちるなど物理的なマイナス面もありますし、プロとして活躍しているならば、スポンサーやサポートしてくれる方々に迷惑をかけてしまいます。だからケガをしないことはとても重要です」

スキーは道具が進化したことで、昔に比べて自分のイメージ通りに滑れるようになりました。それに伴い滑りのパワーに筋力が追い付いていない選手が多くいるそうです。皆川さんが考えるケガをしない心がけとは?

「スキーは滑走中に体重の何倍もの重力がかかります。体の軸がずれると半月板の位置もずれ、それで重力がかかると痛めてしまいます。スキーは落下スポーツなので、腹圧を意識して、体のコアの部分もしっかりしていないといけません。普段からトレーニングで筋力をつけたりサポーターを装着して保護したり、ケガをしないための準備が大切です。プロとして活躍するからこそ、この点は一層重視したいポイントです」

新たに挑む基礎スキーへの意欲

新たに挑む基礎スキーへの意欲

皆川さんは競技スキーを引退後、現在はプロスキーヤーとして活躍しています。また、基礎スキーに転向し、2015年の全日本スキー技術選手権大会出場を目指すなど、新たな滑りに挑戦しています。

「タイムを争う競技スキーではいかに直線的に進むかがカギで、ポールに侵入する際のターン前半の動きに重点を置きます。しかし、基礎スキーは滑りを魅せることが重要なので、大回りではターンを仕上げる後半の滑りを意識しています。小回りでは、エッジを立てた鋭さやキレよりも、リズムよく半円を描くスイングする滑りを心がけています。最近はコブの練習など、大会種目全般の練習に励んでいます。アルペンスキー選手は引退しても、スキーで競い合う生活は続けていくつもりです」

仲間とスキルを高め合い、身体も大切にする

仲間とスキルを高め合い、身体も大切にする

アルペンスキー選手として世界で活躍するという子供の頃の夢をかなえ、引退後もスキー生活を楽しんでいく皆川さんに、現役の部活生へのアドバイスをもらいました。

「自分が幸運だったと感じるのは、ゲレンデが身近な境遇だったこともそうですが、一緒に競い合える仲間や目指すべき先輩、そして世界で活躍する外国選手など、スキルの高いスキーヤーと幼少時に出会えたこと。その頃はまだみんな何者でもありませんでした。大人になるにつれ、活躍の場が国内から世界へと広がっても、そこには昔から知っている仲間がいました。ともに切磋琢磨できる仲間はどんなスポーツにとっても財産です。また、プロを目指すなら、若いうちから体を大切に扱うことも大切。トレーニングでケガをしにくい身体を作り、長く競技生活を続けられるよう頑張ってください」

文・栗山ちほ 写真・渡辺智宏

特設サイト

プライバシーマーク